書評 東野圭吾 「毒笑小説」

郷里の大先輩でもある東野圭吾先生の作品を読破する 「東野圭吾イッキ読み」シリーズ
今回は「毒笑生活」である。

本作は誘拐天国、エンジェル、ホームアローンじいさん、本格推理関連グッズ鑑定ショー、など12冊の短編を収録した短篇集です。最後に京極夏彦氏との対談も含まれている。タイトルは「守れ、笑いの牙城。めざせ、「お笑い」ルネッサンス!」というもの。自身の主流作品(東野圭吾氏は推理・サスペンス、京極夏彦氏は妖怪シリーズなど)とは別のところで本格的な「笑い」の世界を追求する二人の作家の姿勢が垣間見える。(以下敬称略)

一番長いのは誘拐天国で、これは対談で東野圭吾が語っているように、作者としてはかなり熱が入った作品のようだ。一家の財産と事業規模故に「帝王教育」を受けている5歳の孫と遊ぶ時間がなくて嘆くお祖父さんが、その時間をつくるためにわざわざ仲間と共謀して誘拐してしまうという話。この話を読んでいる時から筒井康隆の影響をうけていると感じた、たとえばこの誘拐天国はどことなく私が大好きな筒井作品である富豪刑事に似ている。この思いは読み進めている間も変わらず残っており、最後の対談で筒井康隆の名前が出てくるのをみて、なるほどと思った。お二人はどうやら本格的な「「お笑い小説」の境地も目指されているらしい。(この点、現在英語に関するコメディ小説を書いている私にも大きな参考になり、励みとなった)

東野圭吾が対談で述べているように、コメディを追求するとどうしても世俗的な話題を取り上げざるを得なくなり、社会的なテーマを扱わざるを得なくなるという。
これは環境問題(捕鯨、イルカ、天然資源など)をテーマにした「エンジェル」や警察の紋切り型の対応を揶揄した「マニュアル警察」、過保護な息子の教育を描いた「花婿人形」、自殺マニュアルをヒントにしたと思われる「殺意取扱い説明書」、オレオレ詐欺や振り込め詐欺を思わせる「誘拐電話推理網」などがある。また、人気のテレビ番組をモチーフにした「本格推理関連グッズ鑑定ショー」は意外性のあるオチが秀逸である。

また、本作には他の東野作品とクロスオーバーする作品が多い。「つぐない」などは読めばすぐに、東野作品の一つの主題である(特に脳に関連した)「アイデンティティ」を話題にしていることが分かり、大人気作品の「宿命」、「変身」や「パラレルワールド・ラブストーリー」を彷彿させる。(対談ではこの作品と名作「秘密」の知られざる誕生秘話が掲載されているので、東野ファンは要チェックである)

(普段なら立ち寄らない)古書店で恋人を奪われた相手である親友に対して復讐をしようとする「殺意取扱説明書」はとてもユニークな設定だ。最後のほうのシーンはあの名作「どちらかが彼女を殺した」の事件現場を思わせるし、「本格推理関連グッズ鑑定ショー」ではまったく別の東野作品のとある推理プロットの真相が解き明かされている。

コメディという観点で私が気に入ったのは下記の作品

誘拐天国
ホームアローンじいさん
本格推理関連グッズ鑑定ショー
栄光の証言

一方、残念ながら今ひとつ私の中でオチなかったのが
殺意取扱説明書と誘拐電話網 だった。

個人的なオススメはエンジェルで、これは確か星新一の作品で似た様なテーマのがあったのを覚えている。あちらは怪獣だか恐竜がモチーフだったような。
少し表現がえぐいが、環境問題に潜む人類のエゴを考えさせられるという点で、アパルトヘイトをモチーフにした「第九地区」という映画を思い出した。

シュールなオチだと思ったのは
マニュアル警察とつぐない

もちろん本格サスペンスもいいんですが、東野作品はパロディも面白いので推理ものしか読んだことの無い方にはぜひともオススメしたい作品。
ただし最後の対談を読むとこの先にでている「怪笑小説」も読みたくなってしまうので、そちらを先に読まれたほうがいいかも知れません。

筆者の書棚はコチラ。東野作品、あとちょっとで半分読み終わるくらいでしょうか。。。まだまだ先は長い!

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。