Apple Game Centerが狙うコンソール時代の終焉

Appleの今回の発表は(毎回のことだが)業界によって受け取られ方が様々だ。日本の報道やツイートの様子を見ていると、音楽SNSのiTunes Pingの機能が取り上げられているようだが、Twitterがまさに「おさかん」といった感じの今の日本にはうってつけな話題なのかも知れない。

勿論ここアメリカでもFacebookがやれ2010年度は20億ドルの売上を上げることになりそうだとか、グーグルが出した同社に対する評価額は330億ドルになる、とかの話題でもちきりであるが、日本で流行しているMixiやGREEといったSNSに対して、アプローチが大きく異なるFacebook(筆者の目にはよりピュアなSNSと映っているが)は日本で(少なくとも日本語版としては)ブレイクすることが恐らくなさそうだ。

さて、本題に戻すと、筆者の観点から見た同日のコンファレンスでの目玉ははっきり言って二つ。先日のエントリーでも紹介したApple TVと、Game Centerである。

コンソールキラーとなるか?
コンソールキラーとなるか?

大胆な予測をすると、このGame Centerを皮切りに、コンソール(家庭用ゲーム機)がいよいよ消滅していく時代に入っていくのかも知れない。これは何も新しい予測ではなく、ゲーム業界に身を置く人間の中では以前からささやかれていたことだ。エンターテインメント業界においては、これまでもリビングルームに置いてあるテレビがなんといっても、「本丸」だった。これに対してゲーム市場で画期的なコンセプトでシェアを収めたのがいわゆる「ファミコン」だったわけだが、それから時代は流れて様々なハードウェアが世に出ては消えていった。先日のE3で発表されたようなKinect(MS)やMove(SCE)はWiiに対抗する形で世に登場してきた訳だが、テレビとは違う携帯ゲーム機の市場で独占的な地位を気づいていた任天堂を急速に追い上げてきたアップルは同時に、この「本丸」攻略を虎視眈々と狙っていたのだ。

Appleは言うまでもなく、iMacやMacBookから始まり、iPod、iPhone、iPadといった多様な端末を兼ね備えており、消費者のロイヤリティは非常に高いと言える。これはつまり、過去にソニーが標榜したモデルだ。すでに市場にでている25万以上のタイトルを有しているApp StoreがApple TVとGame Center経由で、いよいよこの「本丸」に乗り出した時に何が起こるのだろうか?

予見できることはいくつかあるが、一つにはコンソールがいずれ消滅していくという事態だ。Appleはどう見てもこの流れを加速化しようとしているように思える。その最初の段階としては、現在の三強のハード(Wii、PS3、Xbox)の一つが消えるかも知れない。ここから先は市場の流れ、消費者のニーズというものをどこまで汲み取れるかということと、もう一つ、重要なアライアンスパートナーであるデベロッパーの支持を得られるかということにある。任天堂のビジネスモデルはあまりにも堅牢であるが為に、第三者に利益が落ちない仕組みになっているということはよく指摘されるが、同社はWii Wareでも同じ失敗をしている。それは取りも直さず、デベロッパーの支援を失いつつあるということだ。これは時代の流れとは逆行している。電子出版にしてもそうだが、小さな独立系デベロッパーの支援をとりつけることは今の市場には欠かせない要素だ。何故なら、大手の考えはともすれば細分化されていく消費者のニーズ(いわゆるロングテール)からかけ離れていくからだ。

ポジティブな予見をすると、このGame Centerが生み出す新しいゲームエクスペリエンスは市場に活気をもたらす。それはApple帝国の勃興をイメージさせるが、消費者にとっては安くて楽しいゲームをプレイできることは何よりだし、「時間」という大きな制約条件がある中では、これまでのように大作をじっくりプレイするというよりは、小さな楽しみをアチラコチラで楽しみたいという人間の数の方が多い。また、既にApp Storeで起こっているように、海外の独立系デベロッパーにとって、すぐに世界を市場として狙えるAppleのプラットフォームは非常に魅力的である。ビジネスのニーズとしては、この海外のデベロッパーを支援するという意味で、マーケティングや翻訳(ローカライズ)のニーズといったものが高まるだろう。コンテンツはいいが、あまりにもお粗末なリリースノートやマニュアルのおかげで市場で不当な評価を受けている作品も多い。また、市場の声をうまく吸い上げて随時更新していくことのできるプラットフォームでは、その「市場の声」が理解できないというのは致命的である。特にこのApp Storeのモデルでは、採算化することが困難なだけに、勝ち残る術はまずランキングの上位に何としてもくいこんでいき、ブランドとしての知名度を高めることだ。そうすれば広告収益のモデルも見えてくる(当面のうちは、だろうが)。

コンソールレス時代を考えるというのは、一見非現実的な話と受け取られるかも知れないが、もうすぐそこまで来ているのかも知れない。そういう方にはまずApple TVとGame Centerでテレビに数十万の面白いゲームタイトルが表示されている光景を思い描いて欲しい。そして、消費者の手にはiPadとiPhone/iPodが握られており、これらはすでに体感型のコントローラーとして機能するというのはご承知の通りである。いかがだろう?それでもまだ非現実的なビジョンだろうか。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。