第6章 電子出版は出版界を救うか? – 電子ブック開国論 (56)

出版界は前代未聞の不況の前にタジタジになっているようだ。四大メディアと呼ばれるテレビ、新聞、雑誌、ラジオの中で躍進目覚ましいインターネット広告よりも金額が大きいのはもはやテレビだけとなった。つまり紙媒体はすべてインターネットにやられてしまったということだ。しかし、注意して数字を観察するとインターネットが相対的には順位を上げているといいながらも、その実広告業界全体の売上高は確実に減少しているのがわかる。特にこの先ソーシャルメディアが勃興してくるようになると、肝心の広告モデルもどのように変化してくるか分からない。なにしろ、ロングテールと呼ばれる一般のネット利用者の大半はオンラインショッピングはするものの、情報に対価を支払うというコンセプトがない。アメリカで課金制のオンライン発行だけに特化した新聞社が倒産したのでもわかるとおり、ユーザーの多くはそもそもネットには情報は無料で落ちているものだと思っているし、一つのサイトや媒体で課金されそうになったら、さっさと諦めてよそへ行くだけのことだ。またデジタル音楽業界で起こったような、いわゆる「中抜き」モデルが広告業界にどんどん増えてくるとしたら、広告代理店の役割もこれから変わってくるだろう。

衛星放送やNHKなどの国営放送局を除いてテレビやラジオは原則無料の視聴で成り立っているから広告モデルは不可欠である。新聞と雑誌は広告と購読料の両方で成り立っているモデルであり、今後電子出版市場の盛り上がりと共に電子雑誌や新電子新聞という形で同じようなモデルが成立して成功を収める例もでてくるだろう。この一方書籍やマンガは原則としてこれまでのようにコンテンツの中には広告を含まないモデルが主流になると思われるが、すでにアマゾンのブログ広告サービスなどが登場しているように、コンテンツの中にもハイパーリンクや画像などを用いて広告を貼るようなモデルが登場しないとは限らない。

マンガや一般書籍のように著作者(あるいはそのスタジオ)が単独で権利をもつものに関してはこれまでのように代価を得る形での直接小売販売モデルが成り立つと思うが、雑誌などのように記者の他に編集者やカメラマンなどを抱えて固定費がかかっている場合は、直接小売販売モデルだけでは固定費を賄えない可能性がでてくる。もちろんこの中には固定費以外にも例えば(書籍に対する)広告費や取材活動費のような販売経費もかかってくる。電子出版といえど、結局はコンテンツの質が重要である点においては、従来の出版と何ら変わりはないことはこれまでにも説いてきた通りである。だから単発の書籍に比べて、(発行頻度はともかく)年間を通じて発行される雑誌については、この固定費の部分がカバーされる見通しがある程度立たないと創刊すらままならなくなってしまう。年間購読というモデルも存在しうるが、当面はよほど大手で知名度のある出版社でない限り読者も怖くて年間購読を申込んだりできないに違いない。

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。