第6章 ウェブの「収斂化現象」とツイッター – 電子ブック開国論 (60)

結果の最上位に表示されるものの大抵は、そういったSEO効果の賜物であり、グーグル検索のアルゴリズム上で最大の評価をその瞬間に受けているもの、というだけに過ぎない。もちろんこれに対してグーグルを初めとしたウェブ企業はさまざまな手法を凝らし始めてきてもいる。いわゆる「リアルタイム・ウェブ」というのもその流れで、その最たるものが世間を賑わしているツイッターだ。ここにも実は「情報の収斂」の最たる要素と言える二つのキーワードが成功を支えていると筆者は分析している。
それは先程伝えたセカンドライフの大失敗と正反対の性質を備えたものである。

情報の収斂現象についてツイッターを支えている二つの大きな成功要素、それは

1. ソーシャルタギング(あるいはピアーやフラグを用いた手法)
2. 文字数の制限

である。これが先程述べた情報の収斂に関わってくる重要な要素である。ソーシャルタギングというのはつまり人脈から「コンテクスト」を検索対象に付加価値として付与することである。ツイッターではフォローという言葉でそれが説明されており、自分が「有益」だと思う情報を提供してくれる人物、あるいは興味のある内容を語ってくれる人物をフォロー(英語でいうところのFollowerという意味には「信者」という意味があるのは偶然ではなかろう)する。例えば電子書籍に関しての最新情報を追いかけるならば、ブログやIT系のサイトなどで最新の情報を発信している人物を見つけ、ツイッター上でその名前で検索(もっとも最近はあちらこちらにツイッターIDが貼ってあるので検索するまでもないかも知れないが)すれば見つけることができる。後はフォローしているだけで随時必要で有益な情報が入ってくるという次第。ブログは自分から探しに行く手間が結構あり、RSSフィードなどのツールでもっぱら同じようなことができていたのだが、ツイッターのほうが基準が統一されており分かりやすい。ただし、誰をフォローするのか、という点については自身で分析をしていく必要がある。これがソーシャルメディアの醍醐味である。多くの場合はフォロワー数を指標とするのだろうが、逆にあまりにフォロワー数が多い人物のコメントは誰もが知っているので、あまり「裏ネタ」としては使えないことが多い。

また将来性のありそうな人物などに早い時期から注目していき、その成長を見守るというのは昔からあるアイドル発掘と同じような楽しみがあるだろう。またフォローしすぎることで情報の消化不良を起こしてしまったり、ツイッター漬けになってしまうことも注しなければならない。情報を集めていたつもりが、何の情報を集めていたのか分からなくなってしまったということになりかねないくらい、この便利なサービスを介して世界中で有象無象の情報が飛び交っている。(その場合トピックごとに応じたリストを作るのが便利だ)

もう一つのポイントは文字数の制限にあると述べた。これは実は非常に日本人に向いた発想であると思っている。何故なら日本人は豊かな自然に囲まれた環境の中でそれらを「歌」で表現してきた民族である。万葉集、古今和歌集、そしてそれらから秀逸なものを厳選してできた百人一首、後には奥の細道に代表されるような俳句集もあり、江戸時代には世相を反映する川柳が流行り、これはサラリーマン川柳などという粋な現代文化に姿を変えて今もそのスタイルを維持している。フォークやJ-POP、演歌などがカラオケで日本国中の老若男女に愛されているのもそうだし、それが世界に広がったことを考えると世界にも同じような「言葉」好きな人たちが多いのだろう。「言霊」という言葉があるがそれくらい、言葉やカタカナの「コトバ」には人間の魂と呼べるようなものが詰まっている。

そして、その言葉を最も美的に「収斂」する方法というのが文字数やスタイルを制限することである。先程セカンドライフがあまりに自由度が高いために失敗したという話をしたが、これとは真逆のアプローチで成功した例にツイッターがあると思う。一般的にルールというものは厳格であればあるほど競技者が切磋琢磨して技術を向上することによって得られる結果の中に勝敗を超えた「美」が滲みでてくるようになる。五・七・五という限られた文字数の中で最適でもっとも美しい「美」を求める俳句の世界にみられるように、人は制限されればされるほど、その中で推敲を重ねていく努力を続けるものである。これが観るものや触れるものを魅了するのは文芸のみならずスポーツや格闘技の世界でも同じことだ。だが多くの場合、これらの「美」は要である制約条件と言うルールが外されると途端にその良さを失うくらいに繊細なものであるという諸刃の剣的な側面をもっている。この点でBit.lyなどのURL短縮サービスはツイッターの140文字に収まりきらないURLを短縮するという切り口でうまく宣伝できたいい例だと思う。最もこの文字数の制限はいきすぎると、前述したような「釣り広告」的な文言になってしまうので注意が必要だ。

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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