電子ブック開国論 いよいよ公開へ

先日から私が電子ブック開国論という本を書き上げたことはこれまでブログでもお伝えしてきた。これはもうすぐ立ち上がる新電子ブックポータルでももちろんメインコンテンツの一つとして取り上げられる予定であるが、紙出版に対してはいろいろな紆余曲折や試行錯誤を経た末に一つの結論に達しつつある。そして、これは恐らく私のような無名の新人作家がインターネットという場を通じて、広く世にでることができるかどうかという興味深い実験にもなるような気がしている。

もうはっきり言おう 電子出版の最大の敵は「出版業界の既成概念」だ。これにはこれまでの商慣習、コンテンツ作りなどすべてを含む。
ここが変わらない限り日本の電子出版市場は立ち上がらないだろう、というか本当の意味でのポテンシャルを発揮できずに終わるだろう。もちろんこれは実は日本に限ったことではないのだが、日本には日本特有の問題がある。

数十年の出版経験を積んだ編集者や出版社幹部でさえ自分たちが出す本が売れるかどうかまったく分からないという。そして事態はどんどん悪化している。昔はあたった読みが当たらない、打率がどんどん下がる。そして出版社は不況になり、「若者の活字離れ」や「国語力の低下」が原因に挙げられる。

果たして本当にそうか?もしかしたら単純に出版業界の凝り固まった既成概念や習慣が単に消費者のニーズからずれてきてるだけじゃないのか?なぜ電子出版の議論の際に「やっても儲からない」みたいな意見が先にでて可能性を潰そうとするのか。自分たちだって散々儲からない事業を続けてきたくせに。出版業界の闇は私が想像していよりもはるかに深かった。正直私にとっては

「紙出版 - 衝撃のビジネスモデル」

だったわけだ。電子出版を巡るディスカッションはむしろマトモなほうである。例えばオンラインマーケティングの業界ではあるウェブサイトの効果を測定するのは非常に簡単な要素がある。PV(ページビュー)に代表されるトラフィック数値とコンバージョン(セールスに結びついた割合)だ。コンバージョンレートが1%だった場合100のアクセスがあれば1個売れる。100個売りたければ大体10000アクセスを目指せばいい。このレートはもちろん上がりも下がりもするが、マーケターは解析ツールなどを使いながらこの明確な数値を常に把握しつつ数字の話をする。

私は出版業界では門外漢だが、その門を叩いてみて初めてその深い闇を知った。というか、言って悪いがあまりにも適当に見える業界なのだ。宣伝に対する費用対効果とかもちゃんと測定されているかどうか疑わしい。そして、かりにそれらが少しは測定されていたとしてもオンラインになるとまったく変わってくる。電子出版でその常識が通用するかどうかなどまったくもって未知数である。

無名であり、ツテがないことの弱みと言われればそれまでだが、本を持ち込んだ際にはタイミング的に他の本が出ていた後で「もっと早ければ。。。」みたいなことを何社かに言われたそうだ。(ちなみに私は自分の編集者を深く信頼しているので、これは編集者に向けてというよりは出版社に対して発言している)しかし、もっと早く持っていけばどうせ「意味が分からない」とか「時期尚早」とか言われてるわけだ。意味が分からない。まったく分からない。

傍から見ると今の出版業界のコンテンツ作りは「バクチ」であり「アトヅケ」である。これで業界を成り立たせている気がする。そしてそれを支えているのが取次のシステムや「印税」の後払いシステムだ。私は現在世界でも最も有名といえる類の某アーティストのライセンス契約の仲介をしているのだが、ここで発生するロイヤリティはもちろん「生産数量(出版でいうところの初回版数)」であり、MG(ミニマム・ギャランティー)は契約時に先払いである。某入力機器メーカーにいたときには有名オンラインゲームの公式ゲームアクセサリーなんかをつくり、その契約にも関わったことがあるが、もちろんそこでも同じことだ。しかし出版業界の印税は契約によりけりのようだが通例1年から2年後以内の期間を目処に支払われているようだ。(著者注:これは起算をどこからするか、「刷部数計算」か「実売計算」か、売り込むのにどれだけ時間がかかるにもよるが、大手の場合では出版されてから2ヶ月以内に支払われることが多いとのこと 自費出版ではまた事情が異なるし、売り込んでいる間にお蔵入りになったりしばらくペンディングになるケースもある。また実売計算では諸々の計算があるためかなり遅くなる)しかも編集者が半分もっていくやエージェントなど、作品の制作工程や権利関係にもよるが著者の取り分は半分くらいまで下がることもある。(著者注:一般的には編集者は10~30%程の取り分となることが多いようだ)

1500円の本で印税が10%(実際にはもっと少ないだろう)だとして、初版5千部だとして著者の取り分は何と37万5千円。新書だったら価格がその半額だとして何と18万7500円。(大卒の初任給より少なそうだ)私は比較的本を書くのが速いほうだと思うが、1ヶ月かかったとすると、自分の月給をもらうのが2年後になるという話。ひどすぎませんか?

というわけで、前置きが長くなりましたが電子ブック開国論の(編集前の)「草案」を当ブログで連載していくことにしました。ブログで読むだけでいいという方はブログで読んで頂ければいいですし、面倒くさいという方や紙で読みたいという方はこれから発売される電子版やあるいはその紙オプション、そしてもしかしたら通常書籍でお買い求め頂ければと思います。開国論はiPadアメリカで発売された直後の4月に書き終えたので少し古い内容があると思いますが、とりあえずできるだけ手をつけずにアップしたいと思います。(ワードで170ページくらいあるので、だいぶ長いですが) 草案については先着順割引のオプションをつけようと思っています。

では、始まり始まり~

電子ブック開国論 序章

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。