東野圭吾「天空の蜂」が訴えかけるもの

1995年に執筆された「天空の蜂」、アマゾンのランキングが上がっている理由は読めば一目瞭然。そんな昔に書かれたなんて、まったく感じさせないリアルタイムな「現実」がそこにあります。原発、高速増殖炉、格納容器、シーベルト、そのリアルな描写は筆者がどれだけ熱心に取材をしたかを伺わせる。

ストーリーは下記のようなもの(小説の背表紙から引用)

テロリストの脅迫に日本政府、非常の決断-!!
爆発物を積載した超大型ヘリコプターが、”天空の蜂”と名乗る男に強奪された。
ヘリはコンピューターによる遠隔操作で、福井県にある高速増殖炉の千数百メートル上空でホバリングを開始した。
そしてヘリの中には、とり残された少年が一人!
著者初の冒険小説!

そして、この小説がすごいところは単に原発事故への不安を煽っているのではないところ。登場人物の背景、家族描写などを通じて訴えかける内容は、国民の「問題意識」の欠如である。イエスかノーか、それを決めるのは国民である。

読んでいて、これは私が「ウィキペディアンの憂鬱」で訴えたい内容と酷似しているということに気づいた。詳しくはネタばれになってしまうのだが、下記の部分から筆者のメッセージの片鱗を伺えるのではないだろうか。

「なあ湯原、絶対に落ちない飛行機があるかい?ないよな。毎年、多くの死者が出ている。それに対して、おまえたちのできることは何だ。落ちる確率を下げていくことだろう。だけどその確率をゼロにはできない。。。」
「原発が大事故を起こしたら、関係のない人間も被害に遭う。いってみれば国全体が、原発という飛行機に乗っているようなものだ。搭乗券を買った覚えなんか、誰もないのにさ。だけどじつは、この飛行機を飛ばさないことだって不可能じゃないんだ。その意思さえあればな。ところがその意思が見えない。乗客たちの考えがわからないんだ。。。

東野作品の中では「さまよう刃」と並んで称される本格的社会派作品。この夏休みにご一読されたらいかがでしょうか?えっ、冷房をつけてもいいかって?それはお任せします。。。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。