ウォルト・ディズニーの約束 -最速試写会レポート

筆者が初渡米したのは10代も残りわずかとなった1994年。当時は浪人二年目、挫折の真っ只中。 広い世界が見たくなり、南港に建設されたばかりの某高級ホテルの清掃アルバイトで手に入れたアメリカ西海岸行き航空券と800ドルのトラベラーズチェックをもって40日のバックパック旅行にでかけた。まさかそれがきっかけでここまで人生が変わるとは想像だにしなかったのだが、やはり人生行動してなんぼである。

ユースホステル滞在中には出会いがあり、現地の雰囲気や出会いを楽しむ仲間も多く、機会もたくさんある。そんなわけで、せっかくだからと英語の勉強のために現地で知り合った仲間と映画を見ることにした。

1994年といえば、ライオンキングや依頼人という映画がやっていた頃だが何より記憶に残っているのがフォレストガンプ(邦題:フォレストガンプ/一期一会)だ。 確かトム・ハンクスの映画を映画館で見るのは初めてだったと思うのだが、自分が滞在していたサンタモニカの町並みやピアの映像が出てきたのに感動した。 かといえ当時の私の英語レベルでは字幕無しで洋画を観るのはなかなか大変だった。特にこの作品は訛りなどがあるので難しく、特にカルチャーに関係したあたりがさっぱりわからなかったが、笑えるシーンや泣かせるシーンがたくさんあったのを覚えている。それからすっかりトム・ハンクスは私のお気に入りのハリウッド俳優の一人になった。

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Saving Mr. Banks Official Site

さて、そんなトム・ハンクスが主演し、ここロサンゼルスを舞台にした映画が今週より全米公開される。 世界的名作「メアリー・ポピンズ」(*映画はメリー・ポピンズ)のミュージカル映画化をめぐる舞台裏のエピソードをテーマにした”Saving Mr. Banks“(邦題:ウォルト・ディズニーの約束)がそれだ。クリスマス映画興行の目玉であり、ウォルト・ディズニー自身をテーマにした映画自体が極めて稀である。 昨夜Disney Parks Blogが主催するこの映画の招待制試写会イベント”Practically Perfect Preview”がダウンタウンディズニーであり、参加してきた。

ちなみにこのイベントの1日前にはLAでレッドカーペットイベントが開催されている。 日本では来春公開予定らしい。 試写会自体はディズニーランドの中にあるAMCシアターだが、その前のレセプションはグランド・カリフォルニアンホテルで行われた。食事やキャストとの写真撮影のほか、衣装コンテストなどもあり、上映会が始まるまでに実に3時間かかった。その後みんなで映画館に移動。映画のキャラクターに扮したディズニーランドのキャストメンバーが案内してくれるという手の凝りようだった。  

ギャラリー:
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食事にもお決まりのキャラクターが登場

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撮影会の様子 「ペンギン」は物語の一つのカギでもある

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メアリーポピンズといえば、やはり煙突掃除

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舞台を盛り上げるMC 衣装も豪華

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ディズニーの歴史を語るStacia Martin(ディズニー・アーティスト兼ヒストリアン)

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バンクス夫人は女性の選挙権運動に夢中

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上映前に舞台挨拶するプロデューサーのIan Collie氏

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参加者全員に贈られたプレゼント 小さなポスターもあった

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イラストはStaciaのサイン入り

公式予告編

 

映画の内容だが、1964年(日本では65年)に上映され、翌年のアカデミー賞を5つ受賞したメリーポピンズのできるまでのお話。

時代は1960年代。ディズニーに映画化権利を渡すのを渋り続ける著者パメラ・トラバース(エマ・トンプソン)をトム・ハンクス扮するウォルト・ディズニーがあの手この手で説得をして、ディズニー史にその名を残す名作ができていく過程を描く。ある「約束」がきっかけで、映画化にこだわり続けるディズニーと、それを20年間も拒み続けてきたトラバース夫人。中心舞台はバーバンクにあるディズニーオフィスでの脚本製作過程、それを挟み込むようにトラバース夫人が育ったアローラ(Allola)という田舎町、そして彼女が現在住むロンドンの自宅である。頑なに映画化を拒み続けるトラバース夫人をディズニーはロサンゼルスのスタジオに招待し、直接の説得を試みる。音楽プロデュースを手がけたシャーマン兄弟らがあの手この手で意固地な作家の心をほぐしていく。。。

ネタバレにならない程度に補足すると、本編を通じて描き出されるのは「家庭愛」であり、「親子の絆」である。これは映画を見る前の印象と相当違っていたので、同じように思われる方が多いに違いない。

ウォルト・ディズニーの約束とは何で、誰とのものだったのか なぜトラバースは頑なに映画化を拒否し、そして最後にそれをディズニーに託したのか その辺りを中心に物語は進行していく。もちろんディズニーならではの趣向や小道具があちらこちらに登場する。ディズニーランドに案内するシーンもある。 ちなみにMr.Banksというのはメリー・ポピンズが仕える家の主、ジョージ・バンクスのこと。その名の通り銀行マンである。 タイトルにも深い意味があり、邦題を考えた方は苦労されただろう。というか全作を通じて歌うシーンや英(米)語にまつわるジョークが多いため、翻訳はかなり大変なのではないだろうか。(個人的にはタイトルの翻訳にあたって、同じくトム・ハンクスが出演するSaving Private Ryan(邦題:プライベート・ライアン)の例がよくも悪くも参考にされたのではないかと思うが実際はどうなのか気になる)

余談だがもともとのメリーポピンズは最優秀作品賞にもノミネートされたものの、結果的にはこれもまた映画史にその名を残すオードリー・ヘップバーン主演のマイ・フェア・レディにそれを譲ることになる。が、ブロードウェイで興行していた同作品の舞台版で主演を演じていたジュリー・アンドリュースは観客受けを考えた製作者側の意向で映画から外されてしまい、代わりにメリー・ポピンズの主演を努め、見事主演女優賞を獲得するのである。(ヘップバーンの歌は声域の問題で、ほとんど採用されず吹き替えとなったらしい)

アメリカでは黄金時代というといつまでも語り継がれる60年代。 その60年代のディズニーランドを舞台にした映画を、収録現場ともなったディズニーランドで見るのは何とも深い感慨があった。 メリーポピンズ、フォレストガンプと同様本作もアカデミー賞候補の目玉にあがるであろうことは想像に難くない。 注目すべきは気難しい、というよりは「超」個性的な主演を演じた二人の演技だ。

また映画を楽しむにあたり、メ(ア)リー・ポピンズの原作や映画を知っている必要は特にない。私自身ほとんど予備知識無しで出かけた、特に著者であるトラバース夫人の生い立ちなどはまったく知らなかったのだが、世界的名作が生まれる背景や、悲劇的なドラマなど、よい意味でサプライズを受けたし、ストーリーに惹きつけられた。 女性や、特に娘を持つお父さん方にはオススメの作品である。(私自身四女の父であることが、特に強い共感を誘ったことは疑う余地もない)

 
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(注記:筆者はウォルト・ディズニー・グループの関係者ですが、この記事の内容は会社や業務とは一切関係なく、一個人の意見として書かれています)

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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