ビットコイン狂想曲 − Satoshi Nakamoto氏が遂に「事実無根」と正式発表

中国政府の規制による相場暴落最大手の取引場マウントゴックスの破綻とそれに続き発生している訴訟群、シンガポールでの関係者の不審死、と連日騒ぎを提供し続けるビットコイン。
最近では、さすがに詳細は知らないが名前は聞いたことがあるということが増えてきた。

ここまで来たら「ハイリスク・ハイリターン」の投資や投機では済まされない。
筆者自身は、当初結局騒動の割にはまったく大したことのなかった「Y2K」問題の間にあるような話ではないかと思っていたが、実は独自の擬似通貨理論を呈して多くの被害者を生み出した「円天」に近い騒動なのではないかと思い始めている。論理的には一見可能に見えるが、現実的には多くの問題を抱えたドリームならぬ沙上の楼閣。そもそもハッキングが可能であることに気づいていた人も多かったのではないか。単に市場が膨らんで金額が大きくなるのを待っていただけなのではないか、裏に黒幕がいるのではないか、などと勘ぐり始めればキリがない。シリコンビーチ関連のイベントでもビットコイン関係ビジネスが多かったが最近ではさすがに影が薄くなった感がある。

ニューズウィークがThe Face Behind Bitcoinの記事を投稿したのは今月初旬。大騒動を巻き起こしているビットコインの隠れた生みの親が実はカリフォルニアにいたということで、突撃取材が敢行される。筆者もすぐ近所に渦中の人物がいたとはびっくりした)ニューズウィークは彼が「生みの親であることを認めたものの、今は関わっていない」という趣旨の記事を掲載した直後にAPがランチ取材(Free Lunch)をしたところ、まったくそれは事実ではないという趣旨の発言をしたとして真実はどちらかと騒がれ続けてきた。(APの記事:MAN SAID TO CREATE BITCOIN DENIES IT)まったく矛盾する2つの大手メディアの記事、真実はどちらなのか?

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どうやら後者が正しかったらしい。今朝開発者と目されたドリアン・サトシ・ナカモト氏が(最初で最後の)正式な発表をした。とにかくそっとして欲しい、そういう切実な思いが伝わってくる書面である。
原文と抄訳を下記に添付する。

Dorian_letter_tw

私はドリアン・サトシ・ナカモトです。ニューズウィークのビットコインに関する記事で取り上げられた者です。私は身の潔白のためにこの声明を発表します。

私はビットコインを発明したわけでもなければ、何ら関わったわけではありません。ニューズウィークの報道について、一切を否定するものです。
「ビットコイン」という単語を初めて耳にしたのは、今年の2月中旬で、息子から聞かされました。ある記者から連絡があり、(それを取り次いだ)息子からその言葉を聞かされました。それまで聞いたこともありませんでした。それからレポーターが家の前で私に立ちふさがりました。その時は警察に通報したのです。レポーターと話すことに合意したことはありません。その後のAP記者とのやりとりの中で、私はその新技術のことを「ビットコム」と呼んでいたほどです。つまりそれほど馴染みのない言葉だったということです。

私はかつてエンジニアリングを学びました。プログラムも可能ではあります。直近の仕事はFAA(連邦航空局)で、航空管制機器の電気系トラブルシューティングを行う作業でした。私は暗号法やP2P技術、代替通貨に関する何らの知識を有していなければ、それに携わったこともありません。

この10年間、私はエンジニアリングやプログラミングに関連した安定な仕事を得ることができていません。その間、賃金労働者や世論調査員、非常勤講師などの仕事をしてきました。2013年には深刻な経済問題によりインターネット接続を解約したほどです。現在私は2012年10月に受けた前立腺関連の手術と、2013年10月に患った卒中(stroke)から快復しているところです。ニューズウィークの記事により、私が良い仕事を得る機会が損なわれてしまいました。

ニューズウィークのご報道は私だけではなく、93歳の私の母や、私の兄弟、そして彼らの家族に対して多大な混乱とストレスをきたしてきました。また私に対して支援の意思を表明してくださった米国内の方々、世界の方々に心より感謝いたします。すでに(本件について)弁護士を雇いました。この件については、本声明が私達からの最後の公的発表となります。どうか今後は私たちのプライバシーを尊重してくださいますよう。

ドリアン・サトシ・ナカモト
カリフォルニア州テンプルシティ
2014年3月17日

自身の健康状態や勤務状態、そして老いた母親など家族のことまで持ちだして窮状を訴える氏の肉声は何とも哀れなものである。
もちろんこれが虚偽の声明だということを100%否定することはできないが、もしも誰か別の犯人がいるとしたらこれは人権侵害甚だしい。またニューズウィークについても、大手メディアとしての正しい報道姿勢のあり方が問われる問題である。ここまで被害が出てたら、もはや「いじめ」である。
今KickstarterやChange.orgで彼を守るプロジェクトが立ち上がれば賛同する人も多いのではないか、などと考えてしまった。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。