その後大手出版社21社(後に10社が参加され31社に)が連合を組み電子書籍協会なるものを打ち立てた時には筆者もその機能性については懐疑的ながらも、一分の期待をもってしばらく動きを見守っているが、少なくとも今のところはあいにく予想通りまったく正しく機能していないようだ。電子出版の波が日本に来たのは実は最初ではない(後述)のだが、今回の波を発生させている主たる企業はAmazonとAppleという米国の超巨大IT企業であり、それに対抗する策を練るのに、そもそもITリテラシーが低く、かつ利益が相反する出版社とう同業企業群が集まりあってどんな大それた動きを起こせるというのか。パワーバランスがそのまま持ち越される上に、結局はみな市場には数えるほどしかいない同じ既存の有名作家を囲い込もうとするわけだからまともに機能するはずがない。呉越同舟という訳にはなかなかいかないようで、海外から話を追いかけている限りにはまともな論議には発展せず、挙句の果てには「日本独自のフォーマットを」とか「紙と電子の共存」などとまで言い出す始末である。全く危機意識と正しい現状認識の感覚があるとは思えず、AmazonやAppleといったグローバルスケールの先進企業が打ち出す用意周到なマーケティング戦略にまったく立ち向かえそうもないのである。(そもそもこれまでまったく立ち向かえていなかったのだから無理もないが)相手はかなりの兵である。Amazonは世界一のオンラインストアだし、全米一の本屋だ。一方のAppleは今や伝説の起業家といえるカリスマ経営者スティーブ・ジョブズ率いるクリエイティヴ集団だ。この二社はまた強烈な信奉者、つまりファンを抱えている。この二社のビジネス戦略は正反対といっていいくらい、違う性質のものだがこれまでこつこつと積み重ねてきた努力がファンの信頼を勝ち取ったことは間違いない。またこの二社以外にも、まだ頭角は現していないが、マイクロソフトとグーグルというこれまだ世界ブランドの大企業が後に控えている。日本危うし、である。
先に断っておくと、筆者はジャーナリストというには恥ずかしすぎるくらい駆け出しの一ブロガーであり、これが最初の著作だから作家という訳でもない。ここのところブームを反映してか、他にも電子出版関連の書籍が市場に何冊か出されているが、それらの多くは市場の分析や執筆に長けた権威の方が書いた本であり、この本にそれを求めることが正しいかどうかは私には分からない。そして、また筆者がこのビジネスで大成功を収めた起業家かというとそうでもないし、そう見栄を張るつもりも毛頭ない。(何よりこれからの市場なのだから)しかしこの本は昨年の春から規模は小さいながらも、米国で地道に電子出版事業に取り組み続けてきた筆者の実体験と主な活動舞台を日本ではなく海外に置きながら、製造業(ハード)と翻訳とIT(サービス)という一風変わったバックグラウンドをもつ筆者独自の感性と市場分析に基づいて書かれている。結果としてはかなり辛口の本になってしまったかもしれないが、すでに日本を凌駕しつつある電子出版という「黒船」の実態を今更見て見ぬ振りをするよりは、早い段階で目を覚ましてもらったほうがいいだろうという断腸の思いで、敢えて苦言を書かせてもらった。特に今回の黒船は単にアメリカ国内で勢力をもった存在ではなく、Apple、Amazon、Google、Microsoft、Adobeといったハードとソフトの境を超えて世界を舞台に大活躍している超優良大企業の集団であるということをどう認識するかが重要である。
これを戦争に例えると、日本からも本来は船団をいくつか出して迎撃したいところだが、ソニーやシャープといった本来ならば迎撃の大本命といえる企業がこれまでまったく正しい方向性を打ち出せておらず、このままでは迎撃どころか簡単に地上戦に持ち込まれてしまい、国民が何が起きているかを理解する前に、本丸を陥落されて終戦となってしまいそうな気配だ。もしもこの本を手にとられたあなたが出版業界のあるいは電子ブック端末を製造する関係者の方であれば、この本を読み終わる頃にはそんな現状を正しく理解して手遅れになる前に(まだそうではないと信じたい)しかるべき戦略と武器で世界の市場に逆に打ってでるための戦略を練る意識をもって頂ける手助けとなれば幸いである。そしてもしもあなたが電子出版でもやはり鍵を握る「書き手」つまりコンテンツのクリエイターの方であれば、まだ日本には武器があり、決定的な勝敗を決める瞬間は訪れていない、と筆者が考える根拠をできる限り説明するなかで、少しでも今後のご自身の活動に励みになれば幸いである。そして、そのどちらでもないが、電子出版の行方を見守っている方々には今後の電子出版の方向性と電子出版が秘めている可能性の部分について、何か少しでも新しい発見を得て頂ければ書き手冥利につきるというものである。また紙面の都合上、すでにメディアのあちこちで述べられているグーグルの電子図書館構想やまだ方向性のはっきり見えない(最近迷走気味の)マイクロソフトの動きについては極力説明を省略させて頂いた。それらについては別の専門家の著作をご覧頂くか、私もまた別の機会があればぜひ書かせて頂ければと思う。
2010 年 7 月 3 日
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