電子出版で立ち上がるのはクリエーターだけではない、かも 新しいニュースサイトの提案

昨日はしばらく続いた雨が降り止んで、すばらしい天気だった。ちょうど前日にこれを見ずに帰国してしまったお客さんはかわいそうだったと思うことしきり。

さて、今週いよいよ発表されるであろうアップルのタブレット機(Slate なのか iPadなのか?ややこしいから早く決めて欲しい)の登場を前にアマゾンが連日のようにプレスリリースを出して新しい仕組みを提案してきているのはこのブログでも何度もお伝えしている。このブログへのアクセスもそうだが、Ebook2.0Forumへのアクセスもうなぎ登りの上昇を続けているようで、電子出版市場の活気はとどまるところを知らないかにみえる。が、そうは言ってもまだ肝心の端末がアジア向けには出ていない状態で、(実は規模はまだそれほどではないのだが)端末中心の動きで業界を牽引しているアメリカの動きに世界中の耳目が集まっているというところ。それもこれも全てみな、電子出版を含めた新しい可能性がこれらの新端末で産み出されることに期待しているからだ。イノベーションである。勿論実際には、可能性を作り出しているのはイノベーターであり端末は彼らの構想の中の一部分にしか過ぎない。電子出版は時代の流れであるとして、推進しようとしていく者と既存権力を維持しようと思う者、そしてその狭間で新たな動きを模索する者、それぞれの思惑がぶつかっている、非常に人間くさいドラマがそこにあるように思う。しかし今回ばかりは日本も内需ではなく、世界を市場としてみる視野を身につける格好のチャンスだと思う。国内にはすでに長年の出版業界で培われてきた相応のパワーバランスと人間関係が出来上がってしまっている。長年住み慣れた世界を去るのはたやすいことではないが、そこが快適でないことに気づいたなら、新たな活動の場を海外に求めるのも一つだろう。

これまで電子出版における日本のクリエーター(漫画家、作家、イラストレーター、アーティストなど)の支援を表明してきたが、これと同時に編集者や記者といった、今までどちらかというと日の目をあまり浴びることのない立場にいた方達にも、今回のチャンスは大きなものであるということに最近気づかされるようになった。最近電子出版に関する問い合わせが日本からよく入り込むようになったが、その多くが出版業界で数十年という経験を積んだ方々である。作家と出版社両方に精通し、これまで双方の事情の狭間で葛藤を続けてきた方々も多いだろう。そして、現在出版業界が抱える問題と電子出版の波をどう受け入れるべきかについて確固たる意見をお持ちの方も多いと思う。異議を唱える向きもあるだろうが、作家と編集者は二人三脚で作品を作り上げるものだと思っているし、多くの名作が素晴らしいタッグで世に送り出されてきたのは間違いない。つまりクリエーターがこれからより広い世界に向けて作品を発表していく時、そのクオリティについて目を光らせてくれる頼もしい存在もまた必要とされるのである。これは不況にあえぐ出版業界で苦しい立場に置かれている方々にも朗報ではなかろうか。勿論道は険しいが、独立するとはそういうものである。しばらくすれば、今まで先行きにあまり不安も考えずに進めてきた多くの考えや仕事が、実は思っていたよりも安定度が低く、先行きが不透明だったということに気づくかも知れない。特に雑誌の編集ができる方はこれから電子出版で活躍できるかも知れない。電子出版ではDTPの技術さえあれば、簡単に雑誌を発行することができる。印刷費用がかからないので、特定のニッチに向けて配信するだけで採算が成り立つかも知れない。物販との連動も勿論可能だ。そして、日本にはそうしたコンテンツが大量にある。多くのものは高いクオリティをもち、情報源としても価値のあるものだ。筆者は高級時計の雑誌がお気に入りで、日本の雑誌の情報量とその体裁の美しさにはいつも驚かされる。海外の雑誌で似たようなものはあったとしても、その品質は比ではないように思う。バックナンバーは紙では無くなったら買えないが、電子版なら際限がない。つまり二次利用による収入にも際限がないということだ。

これと同時に、ニュース記事をかける記者にもまた別のチャンスが到来したと思っている。筆者が構想に入ったのは、今話題のTwitterなどに代表される「リアルタイム」ウェブという概念をフルに活用したニュースサイトである。これは日本のネットメディアの方向性を変えたいという思いからだ。
きっかけは先日ブログに関する情報を収集していて、日本ではどんなブログが人気なのだろうかと思い、Authorityのランキング ”日本の影響力のあるブログ100” に辿り着いたこと。堂々の一位はGIGAZINで、それに続くのは2位 痛いニュース(ノ∀`)、3位 アルファルファモザイクだった、4位に老舗の百式管理人のブログIDEAXIDEAがランクされており、その後も2chのまとめサイトだとかウェブデザイナーに向けたサイトだとか、それぞれのサイトに文句をいうのは本意ではないが、これらが日本で一番影響力をもっているブログサイトだとすると、なんだかとても偏っているように見える。語弊を恐れずに言えば、なんだかブログを読んでる人の大半はネット中毒者かウェブデザイナー、あるいはIT関連者だというような印象を受けるので、これが一般人の感覚であるとは到底思えない。また有名芸能人のブログももう少し順位は下だが、たくさんランクインしている。(筆者が愛読しているメディア・パブは46位だった。ちなみに以前メディアで大きく取り上げられたきっこの日記は100位にはランクインしていない(本日時点))

勿論Authorityのランキングがどれだけ格式のあるものかとか、その信憑性のほどは知る由もないし、(GIGAZINはアジアのトップブログのランキングにも入賞しているとか) Tech CrunchEngadgetGizmodo は勿論筆者も愛読している秀逸な情報源ではある。だが、これらは本家の記事を日本語に翻訳したものが大半だ。この点で、どうも日本にはもう少し硬派でかつオリジナリティが高く魅力のあるメディアポータルが欠落しているように思う。ヤフーやMSNなどは以前多くのアクセスを集めていると思うが、リアルタイム性という点ではまだまだ工夫が必要なように思えるので、今は言うなれば「第二のヤフー」的なニュースポータルの座を狙えるチャンスではないか。そのサイトの記事は登録された世界中の記者(プロでもアマでもいいがまともな記事が書けることが前提)によって書かれ、単純にロイターだとかAPだとかの記事を翻訳してまとめるのではなく、ファーストソースを提示して、それに対する自身の見解を付け加えることでオリジナリティの高いメディアサイトに仕上げる。そして、その記者にはランクを設けてその中でサイトから上がる収益を配分してみるとか。

もちろんDIGGやHuffington Postに代表されるソーシャルニュースサービスというのがそれに近いのだが、テクノロジーや政治などの硬い記事も多い米国の商業ブログやSNS(メディアパブで以前掲載されたランキング)に対して、いかんせん日本ではどうもアクセス増加を期待するタグラインでの集客にフォーカスするあまり、中身が薄い記事が多いような気がする。紙媒体の新聞ではそうではないのかも知れないが、ネットでは特に多いようだ。アクセス数が一気に増えるのはよく分かるが、どちらかといえば「ツリ」に近いようなタグラインも数多く中身を見てあっけに取られることもよくある。それ自体が問題なのではなく、ネットという世界におけるメディアの存在としてバランスがよくないという話である。これがPV数と広告価格の相関性がもたらす弊害である。

既存の日本独自のニュースサイトも日経を始め多く存在するが、逆にこちらはより産業的な構造的な問題としてウェブの「リアルタイム化」についていけていない。(昨今よく「ネットのリアルタイム化」という表現が用いられるようだが、筆者が思うにインターネット自体は最初からリアルタイムが前提であり、最近になってアプリケーションがその機能に特化するようになってきただけのことである。だから、ウェブのほうがしっくりくるのだが、誰かいい言葉を決めてくれないだろうか) もちろんTwitter上でのつぶやきを大手新聞社が記事として取り上げられる訳もないのだが(笑)

アメリカでは商業ブログが盛んであるが、その多くはとにかくオリジナリティの溢れるものである。この点で日本のネットメディアは時代に合わせた創意工夫をする必要があるのではないだろうか。そこにはできたら世界中にいる日本人のネットワークをうまく活用し、埋もれた人材を発掘されることを期待したいし、多言語化は難しかったとしても(日本語を読める非日本人を含めた)世界の人に向けて配信できる内容であって欲しい。
昔 “Googlezon”というモキュメンタリー動画が流行ったが、いよいよその時代が近づいてきたのだろうか。筆者はTwitterのサービスとコンセプト自体にはあまり価値をおいていなかったが、時代の移行という意味では一役買っているのかも知れないと最近思うようになった。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社 ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。元世銀コンサルタント。在米歴30年。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(共にDiscover21)など計六冊。