筆者はオンラインゲームという市場が電子出版市場の動向を分析する上で非常に大きなポイントになるという認識をもっている。これはオンラインゲーム市場は高性能コンピュータというハードとゲームというソフトが課金というプラットフォームを巡って、インターネットという共通インフラ上で戦う激戦場だからである。幸い筆者はこのオンラインゲーム市場において、さくらインターネットの米国法人代表としての立場からオンラインゲームのローカライズ作業という分野を通じて当事者として観察することができた。ではこのオンラインゲーム市場ではこれまでに何が起こり、現在競争はどういう原理のもとに起こっているのかを簡単にまとめてみよう。
オンラインゲームは2000年代の初頭にネットインフラの普及と向上により急速に世界に浸透したカテゴリで、その中身は前述したようなMMORPGやFPS、あるいはRTS(Real Time Strategy)という俗にシリアスゲームと呼ばれるハードコアゲーマー向けゲームのジャンルと、より初心者向けのカジュアルゲームと呼ばれるカテゴリがある。(ちなみにこのカジュアルゲームという名称は「クラウドコンピューティング」と同じように、定義が非常に曖昧な言葉であり、時には意図的に商業操作をされやすい言葉である)オンラインゲームのブームの最初は前者に勢いがあったが、最近ではカジュアルゲーム側にかなり勢いがあるように思う。例えば筆者は家族と一緒によく近郊のショッピングモールにある Apple Store を訪れるのだが、ここでは多くの人々が展示されている iPhone や iPad、あるいは Mac Book といった端末に群がってゲームをしており、これらの多くが App Store 経由で事前にインストールされているカジュアルゲームの類であり、我が家の子どもたちもよく夢中になっている。これはとりもなおさずカジュアルゲームが女性や子供にもやさしい万人向けであるという点であり、iPhoneというコンソール機に比べるとはるかにスペックが低い筐体でも動くゲームであるという点である。
現在市場には主にFlashで動くカジュアルゲームがウェブサイトやSNSに始まり、ネット上のあちこちで見られる。カジュアルゲームがMMORPGのようなゲームを凌駕したもう一つの理由がフレキシブルな課金メカニズムである。大抵のシリアスゲームはその開発に膨大な予算がかかっている。世界で最も成功したMMORPGというと誰しもが思いつくのはブリザード社(現在のActiVision)の World of Warcraft (略称WoW)だと思うが、これらのゲームには数十億円というそれこそハリウッド映画に匹敵する予算が注ぎ込まれている。筆者も複数の開発会社の製作現場のかなり内部まで観察したことがあるが、映像や音楽、ストリーテリングを駆使するこれらの作品は本当に映画のそれと変わらない。だが、結果的にはこのMMORPGという市場は現在あまり主流ではないし、成功例も世界的にはあまり多くない。それは製作と運営に関わるコストがあまりにも莫大であり、それを回収するために必要な課金モデルに柔軟性がないため競争に打ち勝てるのは最大手だけになるという現実があるからだ。「オンラインマーケティングではナンバーワンしか勝てない」という格言がこの市場でも非常に説得力を帯びたものとして聞こえてくる。ではこの課金システムについてもう少し説明してみよう。(続く)
2010 年 7 月 21 日
[…] 第2章 カギを握るゲームとIT業界 2 – 電子ブック開国論 (28) | 立入勝義の意力(いちから)ブログ - 北米発IT情報・電子出版・ソーシャルメディア 2010.07.21 at 2:57 AM 1 […]