勉強会が満員御礼!やはり業界関係者も電子出版に大注目している

来週の出張中に東京で開催する予定の勉強会を当初は、知り合い経由での小規模な会合にして関係者だけの集まりということにしようということで、共催の高橋誠さん(スマイルメディア)や鎌田博樹さん (Ebook2.0Forum)と話していたら、声をかけた人たちから輪が広がり、どうやら当初予定していた倍以上の規模になりそうとのこと。そのため急遽会場の変更を検討し始めることになった。やはり電子出版に関する関心が高まっているのが伺える。海外に滞在している筆者としても、日本にいる業界関係者の方々の本音を直接聞くことができるのは非常に貴重な機会だと考えている。

アマゾン VS アップル 電子出版戦争が激化の一途
アマゾンが先日アップルとの提携が発表されたマクミラン(Macmillan)社の出版物全てをキンドルストア上で(一時的に)取り扱い中止としたことが大きなニュースになっているが、戦争はまだ始まったばかりというところか。電子出版を巡る話題の中心にはリーダー端末以外では、いつもこういった出版物の価格と印税の話で、これが本当に消費者の視点からの話なのかどうかは甚だ疑問である。
その一方、一緒に名を連ねられたMcGraw-HillはCEOがiBooksとの提携自体はアップルから聞かされていなかったとコメントしたのがその前の話題だった。とにかく世界中のメディアを賑わせた発表だったことは疑う余地もなく、翻訳スタッフを急募し始めたメディアがあるのも無理はない(*注1)

ところで、そのiPadの発表にはまだまだいろいろ裏話がありそうだ…特にフラッシュを巡るADOBEとの確執や、iPhoneの最初のキャリアであるAT&Tとの通信契約の話など、筆者が思うに発表直前まで交渉していた部分があるのではないかと思う。特にスティーブジョブズがわざわざiPadでウェブサイトを閲覧してフラッシュが表示されないページを表示してみせるなど、何らかの意思表示がある行動としか見て取れないし、事前に噂としてリークされていた1000ドル前後という価格帯やVerizon Wirelessとの通信提携などは恐らくAT&T側とのやり取りがかなり熾烈なものであったであろうことを匂わせる。
iPadは月々の契約で2年契約を必要としない、これはつまり今年AT&Tとの独占契約が切れた後にVerizonがiPhoneを出してくれば、一気にiPhoneとiPadのユーザーを奪われてしまう可能性があるということを意味する。通常ネット端末の3G通信契約は携帯端末と同様に、やはり1年か2年で規定されるのが一般的であり、今回のように月々30ドルでつなぎ放題というディールはアメリカではかなり珍しい。
AT&Tはスマートフォンの売上が堅調で業績を大きく伸ばしてきたと報道されており、第四四半期の純増ベースでは270万台とライバルのVerizonを上回っている。筆者の周りでもVerizonはネットワークの品質がいいことで評判なので、AT&Tがせっかく手に入れたリードをみすみす失うようなことにならないために、かなりハードなネゴをアップルとしたことは容易に想像できる。

逆をいうと、この価格にはAT&Tの補助が入っていないという風に見ることができるので、価格を下げてきたのはアップル自身だということになり、もともとリーク(!?)されていた情報とはつじつまが合わない。(要するに意図的にデマが流されていた可能性がある)製品が発売されれば、いつものように誰かが分解してコストを逆算するだろうから、そのコストの根拠が合理的なものなのか、それともかなりの生産台数で償却をする意図なのかが分かる。(*注2)

ジャイアンだらけ
それにしても最近のアップルにしてもアマゾンにしても、英語でいうところのハードボールをプレイしているように見える。かなりの強気路線である。「垂直統合」ビジネスモデルの恐ろしさはここである。また表には出てこないもののADOBEの動きも要注意である。上記のフラッシュを巡るアップルとの対立以外にも、電子出版で多くが欧米フォントのみの対応しかしていない背景にもフォーマットで市場をコントロールしようとする同社の動きがある。

しかし、ビジネスはあくまでも顧客本位であるべきだ。任天堂がWiiであまりにもサードパーティに比較して自社を優位に立たせたために、結果としてタイトル数が伸び悩むなど市場拡大の歯止めを自身でかけてしまったように、あまりエゴを通すのは危険極まりない行為なのである。これまで業界をワガモノ顔で独占してきたマイクロソフトは、もはや肝心の新OSが市場からサポートされず、IEはシェアを失い、オフィスはどんどんオープンソースのものに移行するなど、凋落著しいのは周知の事実である。電話業界を牽引しているスマートフォン市場においても、シェアを伸ばしているのはiPhoneとブラックベリーでありMobile Windowsではない、音楽端末のZUNEに誰が目を向けているだろう。

ネットではGoogle(ビッグG)がよく「ジャイアン」と揶揄されることがあるらしい、もちろん中華思想で世界の覇権を狙っている中国もそうだし、アマゾンもアップルもすでに世界市場で大きなシェアを誇る巨人である。巨人と「ジャイアン」の違いはもちろん、日本人なら誰もが知ってるあのフレーズ「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」という台詞を言わないまでも、態度で周囲に示すことだ。これから世界は多くのジャイアンに振り回されていくのかと思うと憂鬱になる。しかも自身の本業にどんどん関わってこられると身の振り方を考えるようになるが、肝心のネコ型ロボット不在では事態に収拾が尽きそうもない(笑)

(*注1)
CNETや朝日が海外デスクやIT記事の翻訳者を急募しているっぽい。さすがに記事が多すぎて人手が足りなくなったのだろうか。
(*注2)
ところで先日のCNETの記事で、iPadの販売予測に関して日本版と英語版で桁が違う(というかMillionとBillionで3桁も違う)発表がされていたのに気づいた方がいただろうか?日本のCNETは数字を翻訳時に訂正したようだが、どうみても間違っていた本家の記事については修正をしなかったと見える。リンクを貼ろうと元の記事を探してみたのだが、見つからなかったので、もしかして消されたのかと思ってしまった。翻訳会社をやっているものとしては、CNET Japanの翻訳スタッフに1アッパレである。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社 ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。元世銀コンサルタント。在米歴30年。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(共にDiscover21)など計六冊。