世界のどこかの片田舎、とあるところに「コトバ」を学ぶための禅寺があった。
そこには世界中からいろんな言語を勉強する上で、学習に行き詰った者たちが『学僧』として修行をしていた。
ある日、周りの英語学僧たちに対して自慢のボキャブラリーを披露していた若い学僧がいた。この者は自前でつくった分厚い単語帳をいつも持ち歩き、研究論文で使われる学術的な単語や医学用語などに滅法強かった。そこをスティーブ和尚が通りかかった。
次の日、スティーブ和尚はこの学僧を誘って、別の場所に赴いた。最初に行ったのは子供達がいる寺子屋だった。
そこには世界中から集まった英語を流暢に話す子供たちが大勢いたのだが、学僧には彼らの言っていることがほとんど理解できなかった。
次にスティーブ和尚は、また違うところにこの学僧を連れていった。そこには今度は世界中から集まった英語を母国語とする人たちが学術的な内容でディスカッションをしていたのだが、アクセントが強い者が多く、また会話のスピードがあまりにも速かったので学僧は会話にほとんどついていくことができなかった。学僧はすっかり意気消沈してしまった。
その夕、自分の部屋に戻るやいなやその学僧は数十年かけてつくってきた自慢の単語帳をズタズタに破いてゴミ箱に捨ててしまった。