「バカッター」で終わらせてはいけない

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「ソーシャルメディア革命」を上梓したのは2012年1月だが、その本の中にすでに同様の事件を取り上げた記憶があるくらい、ソーシャルメディアと関連が強く継続して発生する事件。

世間では「バカッター」と揶揄したり企業の管理不足を責めたり、犯人を特定したりで終わりがちなニュースだが、私は近年強い懸念を抱いている。

仮に、今回のくら寿司や、その前のすき家の例で逮捕された従業員が「競合」からの回し者だったと仮定してみよう。本人は別途謝礼を得ることが決まっている確信犯だとして、そのような人物がこのような事件を起こすことを防止する方法があるのだろうか。

では、「仕手筋」はどうか。仮に誰かがこのような事件が起きるのを事前に知っていて、株の「空売り」を仕掛けていたとする。株価が一気に下がって売り逃げしていたとして、当局が「インサイダー」で逮捕できるだろうか?
逮捕された本人は、大した罪に問われないのが現状です。企業の広報担当の日頃の努力を一瞬で踏みにじる行為にも関わらず、だ。

そのような点で今回くら寿司が発したメッセージは、一歩踏み込んだものである。これからこのような事例がある場合、「産業スパイ」である可能性すら視野にいれた対応をする必要があるのではないだろうか。「くびかくご」で自爆テロのようなことをする人間に対して講じることができる措置など限られている。企業側はとかく無力である。

ポイントは2つあると思う
1.店舗にいる従業員なら誰でもこのようなトラブルが起こせること
2.ソーシャルメディアでの発信が簡単で、ほぼ確実に一瞬でバズること

この2つの問題により、企業価値が一瞬で下がってしまう事態があり、特に上場企業で株式相場にも影響がでる場合、これは「意図的」な風説の流布操作が可能になる懸念が払拭できない。

よって、ニュースを受け取る側も、これからは単に興味本位での対応ではなく、企業側に立って考える必要がある。単にモラル・ハザードと捉えたり、企業のトレーニング不足なんて見方だけで論じるのは、もうやめるべきだろう。監視カメラをつけるというのも、応急処置としてはありだが、それでは問題は解決しない。解雇覚悟の人間に何ができるというのか。

SNS拡散が一気に企業にダメージを与える事例をあまり作りすぎてしまうと、それを逆手に取る反社勢力が仕掛けてくる可能性があるのに、現時点では取り締まる側にも、そこまでの意識があるとは思えない。少なくとも企業側はそのような意識で、今後この問題に取り組むべきであり、その点で私はくら寿司の措置を支援します。

だいたいこんな悪ふざけをしても、当人には何のメリットもない。炎上するわ特定されたら家族にまで迷惑がいくのだから、それでもやるというのは何らかの利益供与を受けているんじゃないか、という視点で疑う位でちょうどいいと思う。再犯防止の為にも、氏名公開も致し方ないのではないか。

悪質化していくこの手の事件には、ちょっとした「見せしめ」が必要なタイミングに来ているのではなかろうか。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社 ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。元世銀コンサルタント。在米歴30年。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(共にDiscover21)など計六冊。