高橋洋一教授が「1ドル300円でも誰も文句を言うわけがない」という過激なコメントをして、それにひろゆき氏が噛みついたことでいろんな有名人を巻き込む議論がX上で起こっている。これについて自分なりに調べてみた。(個人的には私は1ドル300円だと確実に文句を言うと思うので高橋教授の言い分は完全に間違えている。ちなみに私は普段高橋教授の動画などは楽しんで聞いている方である)
そもそも統計分析により、実質賃金とGDPには大した相関性がないことが明らかになっている。名目GDPで判断するか実質GDPで判断するかもあるが、GDPが上昇しても平均給与はそれほど上昇しないし、逆に下ることもある。具体的には、日本の1人あたりGDPは実質的に成長しているが、平均給与は名目でも実質でも停滞が続いている。これにより、GDPが成長しても労働者の実質的な生活水準は向上しないことが示されている。
(出典 参考記事:228 GDPと給与の名目と実質 – 実質化による相違 小川製作所)
また、円安が必ずしも賃金上昇につながらないことも重要なポイントだ。円安は輸出企業にとってはプラスだが、輸入品の価格上昇による生活コストの増加を引き起こし、結果として実質賃金が上昇しないことが多い。1970年から2020年代までの為替データと実質賃金のグラフを作った際にそこに相関性はほぼ無いに等しいことがわかっている。つまり直接は「関係ないのである」。経済はダイナミックなもので、そんな簡単に分析できない、専門家でも「分析」はできるが大抵は第三者から「後付け」と言われたら反論できないレベルのものが多く、「予想」に至っては天気予報よりも当たらない(もちろんそれだけ複雑だということだ)し、そもそも専門家同士で統一見解が出ない。
30年前の日本と今の日本は大きく違っている。時価総額ランキングでトップ層から日本企業が消えたのももちろんそうだが、当時隆盛を誇っていた日系の家電メーカー(SONY、Panasonic、東芝、富士通、日立など)が今米国では見る影もない。これは中国の生産性に追いつけなかったからである。そしてこれは少しくらい円安に振れても変わらない。
なぜなら
- 労働人口に大きな開きがある
- 国内の労働力が工場向きでなくなってきている
- そもそも作るものがない
直近では船舶や半導体、重機などの売上が円安で恩恵を受けたそうだが、そもそも円安になっても日本には売れるものがなくなってきている。宇宙開発や飛行機(MRJの失敗は大きい)などが進めばいいのだが。自動車に頼るのも限界だろう。米国市場ではなんとかトヨタが踏ん張っているイメージだが、他の車含め昔よりは見ることがかなり少なくなった感がある。(参考記事:2023年米自動車販売台数、コロナ禍以降で最高 GMがトヨタ上回り首位維持)
アニメに代表されるソフトコンテンツやアメリカでも伸びてきている飲食関連などはあるにせよ、いかんせん規模が小さい。そして仮に円安で一部の大手企業や政府に恩恵があったとしても、それが広く還元されるかは疑問である。例えば実際先の為替介入で政府は何兆円も儲けたと言われるが、それが庶民に還元されることはなかった。(予算の性質が違うからだ)大手企業の売上が上がったとしてもまた円高にふれるとおもったら企業の懐の紐も緩くはならない。実際トヨタが儲かっていても内部留保に多くが充てられていた。米国では大規模な訴訟一つで数千億円の現金が消えていったりするのだから、おちおちと緩めることはできない。
よって円安に触れたから賃金が上昇するみたいな、単純な仮説論法は通用しないに違いないと思っている。また政府の仕事は民間企業の売上や競争力を伸ばすことではない、それは各企業の企業努力であり、政府に働きかけることも含めてそうである。政府がやるのは大枠で規制を緩和したりする財政であり、経済活動そのものは民間がやることだ。日本にいくらでも兵器を売れるアメリカと違い、日本からは強制できるような売り物はない。(大規模なものでいえば、原発やら新幹線というのはあるだろうが、公平な入札に基づくものであろう)
経済については素人なのだが、今のところ上記のように「為替とGDP」と「実質賃金」の相関性には懐疑的である。実質賃金が上がるとしたらインフレだろうし、そのインフレを起こすのに日銀があれだけやってもできない状態になっている。賃金上昇は少子化ほどは難しくはないのだろうが、同じくらい厄介な問題なのである。これが大学で学んだスタグフレーションなんだろうなと切に感じる次第。