これまで述べたように電子出版市場は既存の出版市場とはあらゆる面で異質である。言うなれば次元が違うので当然である。そこには従来のやり方の多くは少なくともそのままでは通用しないことは少しずつ理解頂けていると思う。これには良い面と悪い面がある。良い面というのは、場合によっては電子出版のほうが簡単なこともあるということで、悪い面というのは従来の手法ではいくら予算や時間をかけても全く功を奏しないということが平気で起こってしまうという予測不能な状態に陥ってしまうことだ。良い面という中では例えば価格の問題があり、たとえばこれまで約200ページの新書で770円で売られていたとして、それよりもはるかに少ないページ数で同じくらいかそれ以上の金額で普通に売れるような商品がでてくるかも知れない。
例えば当社(LMDP)がアメリカのアマゾンが運営するキンドルストア上で販売している売れ筋コンテンツの中に漢字と仮名(平仮名、カタカナ)の学習用フラッシュカードというコンテンツがある。これらは文字数にして1枚多くて20字ほど、ページ数にして多くて百数十ページであるが、価格は3.95ドル(確認)と設定されており、一部売れる度に売価(MSRP)の35%にあたる1ドル強が入ってくる計算だ。おかげさまで非常によく売れており、キンドルストア上の売り上げランキングにおいて全43万コンテンツ中3800位台にランクインしたことがある。実に全コンテンツの中の上位1%にあたる売上だ。(もっともこれはキンドルストアのコンテンツが増えてくる以前の2009年末のことで、今では同じくらい売れても順位はそこまで上にはならなくなった。アマゾンの売上順位は絶対評価ではなく相対評価法を用いているので、逆を返せばそれだけ電子書籍全体の販売数量が増加しているということが分かる。このような生きたマーケティングデータを取れることが実際にコンテンツを販売しているもものの強みである)
これと同時に、後者のポイントを考えるにおいて非常に重要なことの一つがオンラインマーケティングの重要性である。意外に忘れられてしまうことが多いのだが、電子コンテンツはその「電子的な性質」故に、取引される場所はオンライン、つまりインターネットというインフラの上でのみに限定されているのである。(例え電子コンテンツを携帯ショップや本屋の店頭でキオスク販売するようになったとしてもこれは同じことだ)これは通常の書籍販売と全く異なる点だ。出版業界に長く身を置くものであれば、この意味と恐ろしさが理解できるかも知れないが、これはつまり、原則として「電子出版のコンテンツを宣伝する主たる場所はウェブ以外にはあり得ない」ということを意味している。もちろん今後電子書籍が主流になっていく過程で、実際にアメリカで起きているように通常の「紙」書籍と電子書籍が共存していくだろうし、その際にはこれまで通りのマーケティングや広告手法はそれなりに効果を発揮するだろう。しかしながら、電子出版ではこれまで以上にオンライン上のマーケティングにその比重が大きくなることを筆者は疑わない。(続く)
2010 年 7 月 19 日
[…] 第2章 電子出版市場におけるマーケティング手法の特異性 – 電子ブック開国論 (22) […]