宝くじを買うな – 縞馬たちへの伝言 13

(この連載はティーンエージャー向けに書かれています)

久しぶりの「伝言」だが、縞馬君たちは元気でいてくれたのだろうか。日本は特に猛暑だと聞くから、外で遊んだり部活をしたりなんかする時には熱中症にはくれぐれも気をつけて欲しい。僕もつい先週日本から戻ったところだが、本当に暑くてびっくりした。LAに戻るなり環境の違いで風邪をひいてしまったくらいだ。

さて、今日のメッセージは「宝くじ」についてだ。これは言葉を換えると「博打(ばくち)」あるいは「ギャンブル」と言ってもいい。
これにのめり込んではいけない。そのためには、のめり込むことのリスクを十分に知っておく必要がある。実は僕の父親は一生これの虜(とりこ)になってしまって、母親や僕たち兄弟、それ以外の人間にも火の粉が飛んでくるような状況になった。だからこれを言う資格があると思っている。

これには二つのポイントがあって、まずは「やるなら自分のリスクでやる」ということ、つまり間違ってもそれに負けた時に他人に迷惑がいくようなことがあってはならない。他人のお金を奪ってまでそれをするのはとてつもなく無責任なことだ。人間関係の信頼というのはお金では買えないくらい大切なものだからだ。

そして、より大事なのは「博打に依存」する体質をもたないようにすることだ。博打を打つ人は基本的には負けている。誰が何と言おうと、博打というのは運営元、いわゆる「場」が勝つようにできているからだ。「トータルでは勝っている」と主張する人も中にはいるが、それとてかなり怪しい。どの道、使った時間を全てお金に換算すると、それでも勝ってるなんていう人はごく少数だろうし、その人は多分それが博打でなくてもうまくいっている人なのだろう。それくらい徹底できてるのだから。

だから宝くじを買ってはいけない。自分を甘えさせてはいけない。

「買わなければ当たらない」というのが負ける人の主張だ。そう、その通り。だけど、宝くじくらい刺激的で実りのあることというのは他にも沢山あるんだ。宝くじを買う人はそれを買うだけでチャンスを得ようとしている。つまり楽をしようとしているということだ。人生、楽ばかりしようとしているとロクなことはない。苦労というのは成功するのにどうしても必要なことだ。もし君たちが大きくなってビジネスをすることになったとしても、ビジネス自体をギャンブルとはしないことだ、そんなのはうまくいかないし、負けても仕方がないと最初から諦めているというのと同じだ。「ギャンブル的要素」がつきまとうのはどうしようもないことだが、博打と同じくらいの勝率しかないようなビジネスだったら、もう少し苦労してでも他を当たったほうがいい。博打を打つ習慣をもつと、知らないうちに楽をする癖を身につけてしまい、結果的にはそれは自分のためにはならないし誰も喜ばない。

もう一つ大事なことは、「自分を不安に追い込むな」ということだ。当たるかどうかドキドキするだろう?それは自分が不安だということの証でもある。そしてそういう時は大抵いい結果をもたらさない。宝くじを買うことの問題点は「当たること」を夢見ているのではなくて、本当のところは「博打に挑戦している自分」に酔いしれているだけだということだ。そして、それは現実逃避であり、自分を破壊しようとしているだけに過ぎない。本当の幸せは安定からくるものだ。そうでなくとも不安定なことだらけの人生なんだから、自分で自分を不安定なところに追い込む必要はない。多くの失敗を重ねてきた僕自身に言い聞かせていることでもある。本当の意味での「人生の博打」を打つチャンスというのは誰にでも訪れるし、それをつかむのは宝くじを買うよりはるかに難しいことかも知れない。だから若い頃から変なクセはつけないほうがいい。

最後に言うと、

もしもその機会が君の人生を一転させるとしたら、それが自分の努力じゃなくて、「たまたま当たった宝くじ」で君は満足できるだろうか?そして、宝くじに当たって幸せになるよりも不幸になる人の方が多い、っていう噂は僕自身の体験を照らし合わせても納得できることだ、ということを付け加えておこう。

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社 ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。元世銀コンサルタント。在米歴30年。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(共にDiscover21)など計六冊。

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