ネットの未来を占う オープンからクローズドへ [ネットの開国談義とNING]

先日とあるビジネス雑誌で「リアル化するネット」という見出しを見たときに大きな違和感を感じた。インターネットというものはそもそも通信インフラだから最初からリアルタイムに決まっているのに、と。中身を読んだらなるほど、TwitterとかGoogleのLatest検索とか情報「配信」がどんどんリアルタイム化されている、つまり発信と受信の間に時間的格差がどんどん少なくなっているということだった。(それを言うならリアル化しているのは、ネットじゃなくてウェブじゃないのか?とかすぐに自己流で言葉に突っ込み始めてしまうのが悪い癖というかこだわりなんだけども)

確かにグーグルの検索結果への反映なんかも昔に比べると速くなった気がする。紙媒体がその情報発信の遅さでネットに覇権を奪われているが、いわゆるYahoo!やMSNなんかのポータルサイトですらTwitterやブログでの情報配信にはかなわない。時代はいわゆるソーシャル・メディアの時代に本格的に移行し始めているのだ。

しかし、ネットにはまだまだ課題や不安がつきまとう。20年前には誰もその存在を知らなかったこのインフラを通じて、ウェブの世界は急速に膨張している。筆者はこの膨張にはいずれ、大きなゆり戻しがくるのではないかと思っている。というわけで、2010年も始まって1ヶ月が経つのだが、今年移行のネットの趨勢を占う上で、ちょっとした予測と抱負を語ってみたいと思う。筆者が考える大きなポイントは下記の通りである…

1.SNSからPNS (Private Network Service) あるいは PRM (Personal Relationship Management) への移行
2.検索エンジンにピアーの意見を反映させるピアー型検索へのトレンドの移行
3.リアルタイムで世界中の「物書き」がファーストソースに近いところからバイアスのかからないニュースを発信するソーシャルニュースメディアポータルの誕生
4.手軽でフリーな「B級」の情報を求める人々と、信頼できるソースからのプレミアム感のある「A級」の情報を求める人々とのネット上での棲み分けが生じ始める。
5.いよいよネットの世界が言語の壁を超える?
6.携帯端末の普及によるユビキタス化現象により、消費者の時間を奪い合う競争が激化、ゲーム、動画、ニュース、電子書籍などが入り乱れての大乱戦に。

上記は言葉は若干違っても、大きな一つの方向性を示している。それが最初に言った「ゆり戻し」を大きく反映させるものであるということだ。ネットの世界はいわばパワーゲームになりつつあり、その根源はグーグルに代表される検索エンジンのランキングロジックだ。ただ、これ自体は中立なものなので良くも悪くもない。そのシステムを利用して宣伝をするのがいきすぎると、ただ適当に検索するだけではSEO対策を最も講じられているというだけのサイトがトップにでてきてしまう可能性が高く、検索する側もランクを作る側もそれを考えて工夫するといういたちごっこのサイクルから抜け出せないし、また検索エンジン側も収入の大半が広告に依存している以上そのシステムを大きく変えることは死活問題に関わってしまうので、いたちごっこはいわば出来レースである。

時間と空間は普遍の制限
SNSや大規模なオンラインゲームも同じことである。商業サービスである限り、会員数は大きければ大きいほうがいいし、多くの人に時間を費やしてもらったほうがありがたい。よく言われることだが、いくらロングテールの話をしても所詮ネットの世界では1番以外は勝ち残れない仕組みになることが多いので、いわゆる囲い込みが理想的な状態である。が、これは別に囲い込まれたくないと思っている消費者にとっては迷惑な話である。何故かというと知らない間に自身がもつ「選択肢」を制限されてしまっていることがあるからだ。

PRMというのはCRMからもじった筆者の造語である(PをPartnerとして使っている方はいるようだが)が、この発想の動機となったのはいわゆるSNSが自身の人間関係やその優先度をほとんど反映していないことに気づいたからである。コンサルティングという商売はいわば人付き合いでもっているようなものであり、時間は限られているので、人付き合いにも必然的に優先度がでてくる。差別というのではなく、区別だという表現が正しいのかどうか分からないが、相手によって発信したい情報と頻度が異なってくるのは当然のことである。例えば誰しももちろん家族が一番大事であることは当然だが、家族に対して発信する情報とビジネスパートナーや友達に発信する情報は異なるわけでその共有方法も異なる。SNSやTwitterなどのサービスは、空間を超えて色んな相手に対して情報を発信できるが、逆に意外と最も身近で親しい人とは別の方法でやり取りをする。当たり前のようだが、少し考えて頂きたい。時間と空間というのは普遍的な制限条件であり誰しもに共通するものである。人生で成功を収めたいと思えば、その制限条件をどのように扱うかということがポイントになってくる。

勝間氏のことをいうわけでないが、効率的で生産的な活動が結局自身にはねかえる訳であって、大事な人を優先的に大事にすることが幸福になるカギを握っているという言い方もできる。理系的に言えば、インプットとアウトプットがイコールになるのが理想的であるので、それを実現するために「摩擦」や「ロス」をどこまで下げることができるかというのがポイントになってくる。では結局SNSやTwitterなどのサービスが自身の幸福にどこまで貢献してくれるものなのか、ということだが、これは個人によってまちまちであろう。筆者はもちろんこれらのサービスの価値を一蹴するものではない。リアルでは起こりえなかった大きな変化やドラマがあちこちで起こり、人々がそれで幸せになったことも数多くあるのは理解しているし実際筆者自身もその恩恵を受けている。が、どちらかというとこれらのサービスは普遍的なものではなく、一過性のもので成長段階の一部として起こっているのではないかという見方が強くなったということだ。

よく話が難しくなりすぎないようにという助言を受ける(笑)ので、簡単な例を挙げる。
年賀状に始まる挨拶状というものは日本を代表する素晴らしい文化だと思う。(勿論欧米にもあるが)年賀状を刷るにはそれなりの手間とコストがかかるので、やはり知っている人誰にでも送るという訳にはいかなくなる。(筆者の性格も災いしているのだが)海外に住んでいると日本在住の親戚や知人に年賀状を出すのは日本にいるよりはるかに難しくなる。(効率よくやらないと期限に間に合わない憂き目にあう)
ではどうやってその宛先情報を管理しているかというと、10年以上も前に自分でつくった住所録DBだということに気づいて唖然としたわけである。日々の生活の中にこれほどたくさんのオンラインサービスを利用しているにも関わらず、である。もちろんMixiが年賀状サービスを始めたのも知っているし、オンラインのグリーティングカードを利用することもある。が、それらのネットワークが筆者の周りの大事な人々をどれだけカバーしているかというと、驚くなかれほとんどカバーしていないのである。(筆者の母はビデオ再生がようやくできるくらいのデジタル音痴だし、父は携帯電話もまともに使いこなせない)では全員招待しようと思っても、PCを使えなかったり、特定のSNSが嫌いだったりあるいはそういうサービス自体に抵抗があるとかでまず全員を抱え込むのは無理である。そうなると複数のサービスを利用してカバー率を高めるというのも手だが、このアプローチだと重複する知人なんかも増えてきてもう収拾がつかない。(そもそも自分が運営に携わっているSNS (Histy)ももっているのに、同業他社の手先みたいになって周囲の人を勧誘していくのも変な話だ)

この点で住所録や電話帳というのはかなりの万能ぶりである。ネットが普及したといっても、それは通信インフラの一環の話であり、いまだに対人活動の本質的な部分はそれがプライベートであれビジネスであれ、電話と対面式の打ち合わせであるのはそれが時間と空間のどちらかの軸を合わせることで成り立っているからである。逆に言うと電話は相手を時間軸で拘束する必要があるし、打ち合わせでは両方の軸を拘束する必要がある。そして、それこそが優先度ということだ。つまり、それ以外のつきあいというのは極端に言うと「優先度が低い」わけである。(ロバート・キヨサキ氏の「金持ち父さん」本では、期日と優先度のマトリックスを用いたが同じ理屈である)優先度を高めないとアウトプットが上がらない、つまり満足度が得られないということになる。心が満足している状態というのは幸福な状態である可能性が高い。(もちろん満足しないソクラテスでいたいという方を止めるつもりは毛頭ない、あくまでもその人がそれを幸福で満ち足りた状態だと認識していればの話だが)

これらを考えていった際に、ネットが今後どうなるかを推し量ることができると思う。
前提になる考えとしては、誰かが中毒のように何かに一時期はまることはあっても、それが非効率であったり当人のためにならなければ必然的にその行動は持続されなくなる、つまり意図的に中断されるか、あるいは続けることが不可能な状況まで突き進む、ということがある。
(余談になるがいわゆるADHD<多動症>を抱える者(筆者がそれかどうかはさておき)はこの状態ではフォーカスのシフトが意図的にしづらく、結果として行くところまで行ってしまう。ギャンブルや薬物などの刹那的衝動や刺激を継続的に追い求めてしまう訳である)
オンラインゲームだと制約は限られてしまう、部屋に閉じこもればいくらでもゲームが出来てしまうからだが、同じゲーム中毒でも屋外でiPhoneなどの携帯端末でプレイした場合充電が終わればそれでジエンドであるから、逆に歯止めがきいていいのかも知れない。(意図的にやればこれも立派なリスクマネジメントであるので、筆者もiPhoneのカーチャージャーは敢えて買うべきでないのかも知れない 笑)

玉石混交となってしまったウェブの世界ではノイズが本当に多いので、良質な情報が得られにくい。限られた時間内で有効なサーチをする必要がある多忙な人間には特にそれが障壁となっていると思う。その場合は自身で検索に関してのノウハウを気づいたりするのも手だが、身の回りにいるそれに詳しい第一人者の意見を聞くのがてっとり早い。事業で成功するカギは弁護士や会計士、税理士、コンサルタントなどの優秀な専門家を雇うことだと言われるが、ではネットの検索は誰に聞けばいいか。これまでにもいくつか解の提示を試みたサービスはあったと思うが、信頼できるソースからの情報と限定した場合には適合するサービスが少ない。これは上述したとおり、ネット上のビジネスの多くがアクセスを稼ぐためにオープンになる必要があるから。しかし、匿名の人物からの意見に真剣に耳を傾けて答えを出すのが難しい問題というのもたくさんあるし、フォローアップまで彼らが責任をもってくれるかというとそれはない。つまりやはり専門家を雇うしかないのであるが、相手がことネットの専門家である限り、SEOなどに長けた組織が提供している情報が上位に来ることがそもそも問題だと言っている、そのネット上で検索する必要があり本末転倒甚だしい。

今やネットは老若男女、貧富の差、文化や言語の違いを問わず活用される情報源であるからネット自体が大衆のためであり続けるであろうことは想像に難くない。ではどのようにして成功者はこのストラクチャーの中で彼らのリアル世界での強みを持ち込むのだろうか。これが筆者が2年ほど考え続けてきたテーマであり、その解答がピアーという考え方である。つまりリアルの人間関係をバーチャルに「そのまま」持ち込むのである。そして、ネットの特性を利用して、同じレベルの者同士が集まるクローズドな空間を作り始めてそこでどんどん効率のよい情報共有を行うようになるのだ。これはWinnyやMXなどのP2Pファイル共有空間で実際に起こったことだ。いわゆる「フリーライダー」をよく思わない者達は有志で集まって自分達だけでクローズド環境をつくっていった訳である。これは何のことはないいわゆる「いちげんさん、おことわり」のお店やサロンと同じ概念である。

もちろんすでにそういったものはあちこちで存在しているはずだし、そう思いたい。が、筆者の周りには無かった。これだけ優秀な人物、世界中にネットワークを抱えてグローバルスケールでビジネスや文化活動をしている方々に囲まれているにも関わらず、である。そこでちょっとしたプロジェクトを考えた。

目指すは世界を舞台にしたブレイントラストと善意のサポート集団! IDEASPRING 始動

筆者は2007年にCharity Globe (チャリティ・グローブ)というNPOを立ち上げたのだが、力不足でそのままほとんど休眠状態にあった。コンセプトは世界中の草の根NPOのマーケティング・PRを手伝い、世界中にいるはずの共感者や支援者の潜在層を掘り起こしてネットを通してつなげるというものだ。具体的には動画やゲームを通じてNPOとその活動の支援者 (Activists)、寄付者(Donors)、そして受益者 (Recipients)をつなげる活動を行い、普段「顔が見えない」と揶揄されることの多いチャリティ活動の「顔」を見えることにしていこうというものである。
Charity Globeのキャッチコピーは “Refine Your Goodwill Search“である。

しかし今回今井ショーンさんという協力な味方を得て、彼がChairman/Executive Directorに就任してくれたことで一気に活動を再開していくことになった。しかも超がつく大物スポンサーつきである。これからNPO支援のイベントのみに囚われず、メディアイベントなどのプロデュースも手がけていく予定。

idea spring – アイデアスプリングはアメリカで流行しているOpen Socialの流れを汲んだNINGというサービスを通じて、立ち上げられた「クローズド」なソーシャルネットワークである。

Idea という言葉の語源はギリシア語のイデア(見られたもの、の意)で、ご存知のようにこれはプラトン哲学により高められ物事の本質、つまり「本来の形」、そして言葉を変えれば「万物の理想の状態や姿」を指すようになりました。
Spring という単語は多義語ですが、これには泉、バネ、春、動詞的には弾き出す、という意味合いもあります。

IDEASPRINGは従来のSNSのように、無尽蔵に人が増えていくことを意識されたネットワークではない。(将来的にはCharity Globeを年間を通じてサポート頂くということでの見返りとしての支援者ネットワークへの参加、という構想を考えている) むしろ、誰にでもというのではなく、大きな夢、高い志や専門性を持った方々にこそ招待して頂きたい。コミュニティへの貢献から始まり、ひいては地球規模での環境改善や平和構築といった大きな目標に賛同頂ける方々にまずは広めていき、実際にどのような「CHANGE」(変化) あるいはDIFFERENCE」(違い)を目の前に広がるリアルな世界で起こすことができるか、ということを実験するためのスペースでありたいと考える。またそのグローバルなネットワークを活用してソーシャルニュースポータル的な役割も果たしていくことになると考えている。もちろんその延長には電子出版がある。

筆者は今年はビジネス以外に「環境ブロガー」として執筆活動と講演などに従事したいと考えているのだが、このIDEASPRINGは筆者が考える「ウェブの未来」の一つのカタチである。スタートは小さいが、意義は十分にあると考えている。(インターネットに限らない)ITやビジネス、そしてメディアを取り巻く環境を考えた際の筆者なりのアプローチである。もしも招待状が届けば、ぜひともご参加いただきたい。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社 ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。元世銀コンサルタント。在米歴30年。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(共にDiscover21)など計六冊。

1件のコメント

  1. 韓国 gucci
    2013 年 7 月 20 日

    ネットの未来を占う オープンからクローズドへ [ネットの開国談義とNING] | 意力 “Ichikara” Will’s Blog

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