第3章 イノベーションに妥協しない – 電子ブック開国論 (37)

大手ソニーでさえ苦戦している状態で、AppleやAmazonに対抗していく勇気と体力を兼ね合わせた大手メーカーがあるかどうかは分からないが、どうせ作りこむなら付け焼刃ではなくしっかりとしたコンセプトを煮詰めに煮詰めてことに望むことだ。Nookの例が顕著な例だが、Kindleを意識しすぎるあまりにどうみても二番煎じになっており、Kindleに無い部分を頑張って追加すればするほど製品自体の「哲学」や一貫性がどんどん弱まっていくのを感じるのは私だけではないはずだ。

(モノがいいかどうかは別にして)実際にNookがそれほど売れているとは思えないし、体力が圧倒的に違う二強を前に所詮は一国の一介の本屋に過ぎないBarns & Nobleがどこまで資本を注入して際限なく続く製品のアップデートと価格戦争についていけるか甚だ疑問である。(注:先日B&Nは自社の売却を考えていることを発表した) この不況の中では本質を見つけなければ乗り切ることはできないと思う。専門家でさえまったく先が読めない電子出版市場においてはそれがコンテンツだと思うし、ハードメーカーであればやはりそれは企画する端末である。両方に必要なのは全体を俯瞰してみることのできる「視野」と揺るぎ無い「決意」である。その二つが合わさって初めてイノベーションが達成される。簡単に妥協してイノベーションのない製品をつくっても、大やけどを負うだけである。それはすでに過去に幾度と例のあったハードウェアの戦争で各大手メーカーも痛いほど知っている。特にMP3プレイヤーの件についてはつい最近起こったことで、しかも相手が同じときている。それは今や世界一の家電メーカーとなったサムソン電子でさえ同じことだ。CESの際にはサムソンを含め、多くの電子ブックリーダー端末が登場したのだが、現時点ではそれらのほとんどが市場にお目見えしていない。多くはiPadを目の当たりにしてそのスペックと可能性について、衝撃を受けたに違いない。ましてや大企業でなければなおさらである。中途半端な製品をつくったら会社を傾けかねないことくらい重々に承知しているから、みんなうかつに動けないのだ。そしてその間をAmazonとAppleという二隻の黒船がゆうゆうと泳いでいくのである。

ただ今回ばかりはマイクロソフトとグーグルが追いつくにはかなりの努力を強いられるだろう。特にマイクロソフトはかつてあったような市場からの追い風をもう受けていないので、かなりの苦戦を強いられるのではないか。傍からこれら大手の戦いを見ていると、まさしく「戦争」という言葉がぴったりくる。的確に判断できる「参謀」はどこの世にも必要とされると思うが、まさにこのような乱世においてこそ最も必要とされるのではないか。またそれを見抜く眼力も将たる経営者は欠いてはならない。

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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