第4章 ダイヤモンド事件が語るもの(ソーシャルメディアの脅威) – 電子ブック開国論 (41)

E-Book2.0Forumは2010年3月28日のエントリーで大々的に採り上げた記事は過去最大のアクセスを得たという。その見出しは『週刊ダイヤモンド「出版特集」中止事件』。

これは週刊ダイヤモンドという社名を冠とする名門誌が60ページという大型特集を組む予定をしていたある記事が発行直前になって「社内上層部」からの圧力によって中止になった事件だ。事前に必要な全ての承認と執筆手続きを取っていた記事の発行2週間前でのキャンセルというのは過去にもたった1度しかなかったという。しかしもとを正せば、このいわば「内部機密」がリークしたのはソーシャルメディア界の論客として知られる池田信夫氏がその2日前に同氏のブログ(池田信夫blog-part2)で「週刊ダイヤモンドの消えた特集」として取り上げたからだ。

しかし、同記事によると実はそのちょっと前にすでにツイッター経由でネットには噂が流布していたという。これは結果的には今後来るべきソーシャルメディア時代のパワーの一端を見せつけられた事件だったし、記事を差し止めた出版社側とその指示を出したとされる人物を結果としてネット上に浮き彫りにさせてしまう事態となってしまった。このようにソーシャルメディアというのはこれまでのマスメディアとは異なり、いわゆる「圧力」がかけにくいメディアという特徴があり、これがうまくいくと偏見のない客観的なメディアと個性豊かな論客、いわゆるオピニオンリーダーが世の中を引っ張っていくことになり、まずい方向に進むとネットの観客を支持層に取り込んだ主観的なオピニオンリーダーが、自身の利権に沿う形での情報扇動を常套的に行うようになる、いわばミニアジテーターを生み出してしまうのだ。

これに対応する方法の一つは情報を受け取る側の読者が自身のアンテナと感性で、情報の取捨選択とフォローするオピニオンリーダーを的確に選別することであり、結果的にこれは同じことを意味する場合が多いかも知れない。簡単にいうと、これまでは何の気なしに最大手のヤフー!というポータルから主だったニュースを得ていた読者が、カテゴリ別、あるいは書き手別に細分化されたサイトやブログ、ツイッターなどのソーシャルメディアツールから情報を得るようになるのである。これが例えば携帯向けに特化されたサイトのように、サイトのデザインを少し変更すればiPadなどの多機能タブレット端末などに向けて簡単にウェブサイトでできてしまうことは理解頂けると思う。そしてソーシャルメディアと大手広告主(あるいは広告代理店)には中立性を保つことにメリットのあるメディアとしての性質上本質的に相容れない部分がどうしても残ってしまうので、当然そこには課金モデルが伴うであろう。
(*注 後にダイヤモンド社はすり替えの理由について単純にドラッカーブームに合わせて彼の特集に変えたとコメントしたとのこと)

第五章へ続く

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社 ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。元世銀コンサルタント。在米歴30年。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(共にDiscover21)など計六冊。