北京

今回初めて北京に来たのだが、北京の印象はこれまで訪れた他の中国の都市よりもかなりいい。もちろん好き嫌いは分かれるのだろうが、私はこの落ち着いた街に日本よりもはるかに長い歴史をもつ中国という国の歴史と成熟さを感じる。上海に比べると非常に地味な印象は受けるが、政治機能が集中しているここでは彼の地で感じられるような商売っぽく派手でギラギラした感じはない。それは街ゆく人々の服装にも表れている。広大な中国では行くところ行くところそれぞれでまったく違う印象を受けるが、私はここ北京で中国の一番自然な近代化の例を感じる。現地での要人とのMTGで中国の政治・経済、法整備などについて話が及ぶと、ここ北京では今まで知らなかったことを学ばさせられることが多い。世界一の人口を擁するこの国を動かしている人々の裏事情などを垣間見せられることが多く、最近躍進が目覚ましい中国が単にバブルの波に乗っているというのではなく、周到な計画と大胆な施策のもとに少しずつ前進しているさまが見て取れる。

経済的には、世界一の人口は勿論世界一の潜在的市場を意味する。自動車や携帯市場というメジャーな市場で世界一位の地位を誇る中国は、今や20年前、いや10年前ともまったく違う視線で世界中の国々から注目を集めている。かたやそれと同じ期間 『ガラパゴス』 と揶揄される高度でかつ独自の成長を遂げた日本は世界からの注目を失いつつあると思う。我々が海外に進出した時に恩恵に預かれた「MADE IN JAPAN」のブランド力はどんどん力を弱め始めていると感じるのは私だけではないはずだ。ロビーの力をみても日本の国際的競争力は本当に弱い。「中国はどこにいくのか?」はすなわち「日本はどこにいけばいいのか?」を教えてくれる教科書でもある。私自身がひょんなことから携わることになった、今回の大きなプロジェクトを通じて感じるのはまさにその点であり、これは私にとって教科書や机上の空論ではなく、まさしく現実そのものである。日本(そして日本人)の強みとは何か、日本が国際社会から求められているものとは何なのか、をもっと議論してみたらそこに何らかのコンセンサスは生まれるのではないだろうか。(ちなみに私は『ガラパゴス』化そのものは現実であるので良いも悪いもないと思っている。問題はその現実を無視しようとしたり、歪曲したり、違いを認識せずに逆に海外をガラパゴス植民地化しようとして大敗を喫したりすることである。島の中でのみ快適に生活したいというのが目標であればガラパゴスはパラダイスである、が、このいわゆる「鎖国か開国か」という議論は120年も前に決着がついたはずではなかったか)

余談であるが、最近テストを始めた「絶対語感」ビデオポッドキャスト用のネタとして、市内のあちこちにある英語のサインを見たのだが、煩わされたことはほとんどない。空港のターミナル間をつなぐニュートラム内などで流れる英語アナウンスメントも日本のそれに比べてレベルがかなり高い。これは昨年のオリンピックなどに向けて北京がかなり国際化に注力したということなのかも知れないが、外国人で溢れかえる東京の六本木でみかける英語サインのレベルのあまりの低さが頭をよぎり、この差は深刻だと感じさせられた。教育の目的をどこにおくかを施政者は真剣に協議すべきであり、それは決して短視野的なものであってはならない。政府と教育機関はいっこうに効果のあがらない英語教育にどこまでお金を費やせば気が済むのだろうか。予想通りの結果があがらない時にはその現実を直視してアクションをとる、ビジネスなら当然のことなのだが。。。私にできることは何だろう。

ケンピンスキーホテル
ケンピンスキーホテル

(*写真は今回先方の厚意により手配頂いたホテル。ルフトハンザセンター内にあり、住居棟も隣接している。北京空港からは車で40分くらい。ちなみに北京空港はすばらしい空港だ。)

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社 ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。元世銀コンサルタント。在米歴30年。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(共にDiscover21)など計六冊。