「発想の壁」を考える

養老教授のベストセラーに「バカの壁」という作品があるが、実は筆者は養老教授に敬意を表して敢えてまだこの本は読んでいない。
(しかし、教授の書いた環境論「いちばん大事なこと」は藤原正彦教授の「祖国とは国語」と同じくらい大好きな本だ。両方とも大学教授がまったく専門外の話をしているのに妙に説得力がある、という点がすばらしい。要は中身の問題だということ)

で、本題に入るとインターネットという万能インフラを通じてこれだけビジネスモデルが複合型になってくると、全体を俯瞰しながらのビジネスモデルの構築がかなり難しくなってくる。またスピードも速く、このスピード感に戸惑う人はどこの業界にもいると思うが、出版業界は特にアナログな人が多いみたいで、どちらかというとこれまでもものすごいペースで進化を遂げてきた、ITやゲーム業界の動向に詳しい人間がいうことのほうが先読みする点ではあたってくるはずだ。とにかく方向性を誤るとどれだけ努力をしても実を結ばない。頑張れば何とかなった、もはやそういう時代ではないのかも知れない。

これまで(留学生などを含めて)キャリア相談に応じることがよくあったが、その時に使っていた例というのは「例えば目標地点が2階にあるとしたら、どれだけ北や東に一生懸命走っても一生目的地にたどり着くことができない。なぜなら大事なことはそこにある梯子を見つけて登ることだからだ。だからどこが目標かを先に見定めたほうがいい。」つまり考えと行動の次元が異なっているのだから、どれだけ努力をしてもしょうがない場合がある。もちろん大まかに目標値を定めれば後は前進あるのみだ。この場合でいうと、梯子の長さがどれだけあるか分からないし、2階にたどり着いたら、またはるか遠方に目標地点があることを発見するのかも知れない。でも、そしたら走ればいい。同じ次元にいたら後は努力した者が勝つ。

最近はこの例えを、とあるiPhoneのゲームを用いて説明するようにしていたのだが、実はこの説明、我ながら分かりやすい。で、先日アップルストアに行った時に、これを証明する「生きた証拠」があったので、思わず自分の子供が遊んでいたiPhoneを拝借して写真と動画を撮った次第。

ではお題です。

下記はNBA Liveというバスケットボールのゲームです。普通の画面でプレイするには左側に現れるサークルに左手の親指を置いて方向を定め、後は右にある二つのボタンを押してパスとかシュートを決めます。ここまでは、過去にバスケットボールのゲームをしたことがある人なら簡単に分かることです。なので、よしよし、と思ってプレイし始めます。ここまではあまりヘルプなんか見ないですよね、分かりやすいゲームだと思いますから。

NBA Live (EA)の操作画面スクリーンショット
NBA Live (EA)の操作画面スクリーンショット

ところが、です。多くの人はこの後とんでもなく大きな壁にぶちあたります。それがフリースローです。ファウルとかした時にシュートの体制から始まるやつありますよね、あれです。実はこれ、ちょっとした発想の転換が必要で、分からない人は多分「100時間」費やしても分からないです。というか諦めるしかないでしょう。実際にこのお店にあったiPhoneもその状態で止まってたんです。だからそれを見た私は、「ははぁ」と合点がいった訳です。その人もきっと、この「発想の壁」を乗り越えられなかったんだろう、と。(わかってる人はただニヤニヤしながら続きを読んでください 笑)

これがフリースロー前の画面です。画面を見てください、これまであったボタンが消えてしまっています。シューターが立ってて、ボールを持っているだけです。フリースローを放つにはまず構えなければなりませんが、どこにもボタンがないので、どうやっていいのかさっぱり分からないはずです。実は私もこれにこないだはまりまして、東京に向かう飛行機の中でやたらもがきました。(実は私はかろうじてヘルプを見ずに答えが分かったんで、何とか自分で威信を保ちました 笑)

BEFORE
BEFORE

でも、とあることをすればちゃんと構えます。(ゲームなんで当たり前ですが)

AFTER
AFTER

ここで考えてください。じゃー一体どうしたらいいのかと。ここでピンと来る人も多いはず、ですがきっと分からない人には全くわからず途中で投げ出してしまうでしょう。これが現在起こっている電子出版やソーシャルメディアを巻き込もうとしているインターネットを取り巻く環境変化の例だと考えてください。

もし全く分からなければ、成功する選択肢は三つしかありません。

1.誰かに聞く (か、分かる誰かにやらせる)
2.マニュアルを読む
3.諦める

これだけです。つまり、自分でまったく分からなければ分かっている人か分かりそうな人にお願いして試してもらうしかありません。そして、過去の体験から正解のカギをもっている人はヘルプを見なくても正解にたどり着く可能性があります。(そういう人はオッケーです。というかこういう人が一番柔軟性がある人だと思います)あるいはただヘルプ読め!って言ってくれる人もいるかも知れませんが。。。この人も言っていることは正しい。何故ならそこには答えがあるから。でも実際の人生やビジネスにはそんなマニュアルそうそう転がってないですからね、言っときますが。

相当えらそうですいません。でもショックを与えるにはきつい表現のほうがいいですね。

ではもったいぶりましたが、回答です。下記の動画をご覧ください。

正解

本当は両手でもってやるんですが、撮影の都合上こうなってしまいました。ポイントは理解頂けると思います。
(後ろで叫んでいるのは我が家の四女アガサです。奪っちゃってゴメンね)

よく「押しても駄目なら引いてみな」と言いますが、今の時代はそれ以上のことができるかどうか。この場合iPhoneをもったまま、本当にもがいてあちこちに動かしてたら微妙にキャラが反応するので、それを見逃さずにキャッチできるかどうか。後は簡単です。

で、あなたがもしトップで意思決定をする立場にありながら、こういう考え方ができないタイプであれば、いさぎよく身を引いて出来る人に任せてしまいましょう。それしか先に進む道ないんですから。あるいは、もしもまだ人生の先が長いのであれば、今からでも遅くありません発想を転換する術を学んでください。でも分かってる人に「教えろ」という立場を取ったらいけません。「教えてください」です。だって教わる側なんですから(笑) 偉いのに謙虚になる、これが一番難しいことですよね。まだ努力して先に進みたいなら要求されているのはそれです。日本の創業期を支えてきた偉大な経営者にはそういう証がいっぱいありますよね。

「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」 というのはもっとも難しい人生の格言の一つかも知れません。
進め、世代交代!! 意力は若くて未来を切り開ける若者が前面に出られる環境づくりをサポートします。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社 ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。元世銀コンサルタント。在米歴30年。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(共にDiscover21)など計六冊。

2件のコメント

  1. GED
    2010 年 4 月 14 日

    壁・・・どこが・・・
    touchすら持ってないけど逆に悩んだ件
    この程度なら人に聞いた方が早いと思うな

  2. will
    2010 年 4 月 19 日

    GEDさま
    いつもご訪問頂きありがとうございます。
    そうですね、分かる人にはすぐ分かります。ただ、現実に出版業界の方が抱えている「発想の壁」というのはこんなに簡単ではないのと、周りの誰に聞くべきかをまず考えないと、というところがポイントですよね。

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