シリコンビーチを知ってますか? 新しきIT起業の拠点

もともとロサンゼルス有数の観光地であるサンタモニカビーチとピアを有するサンタモニカは今、シリコンビーチと呼ばれる熱きITスタートアップのメッカとして、その姿を変貌しつつある。
筆者自身も先日のSchmoozdやその他のネットワーキングイベントに参加した中で、その熱気を感じることができた。
まだまだ数は少ないが、ブログ記事などもある。

<関連記事>
今ロサンゼルスがスタートアップ都市として非常に熱い5つの理由(シリコンバレーを超えるという噂も有)
シリコンビーチが世界を変える

個人的にも、ITスタートアップをするにはシリコンバレーというのはそろそろ迷信になってきているのではないかと思う。というのも、シリコンバレーはそもそもテクノロジーの拠点ではあっても、そこにはコンテンツがない。プラットフォーム競争も一区切りした中で、今後はITスタートアップもどんどん多様化していくことが予想されるが、アメリカで本当に成功しようと思えば市場を熟知する必要がある。この点で、シリコンバレーにある周辺都市は人口が少なすぎる。そして、人口的にも偏りが多い。アメリカは民族の多様性を代表する国家であり、市場である。そんな人種の多様性をロサンゼルスほど色濃く反映している地域はない、というのが一つの持論である。また、ロサンゼルスにはハリウッドというエンターテインメントの拠点がある。今後私が特に注目する動画系プラットフォームやコンテンツ周辺のビジネスにはロサンゼルスはもってこいである。何よりロサンゼルスには

1.俳優・女優が多い
2.プロデューサーが多い
3.脚本家が多い
4.メディア企業が多い
5.機材(をもっている人)が多い
6.機材の使い方を知っている人(エディター、グラフィックのプロフェッショナルなど)が多い
7.白人、黒人、アジア人それぞれのコミュニティが大きい

今後スマートTVでチャンネルの多角化が進んだ際に起こるコンテンツ競争で、YouTubeに代わる新たな動きが起こることも十分に期待できるわけで、その際はロサンゼルスが筆頭格である。特に拡大一途のアジアには民族的にも地理的にも親和性が高い。

人口的にみても、ロサンゼルスは全米第二の都市圏とされている(アメリカ合衆国の主な都市圏人口の順位)が、一位のニューヨークが他州を混ぜて2000万人弱となっているのに比べ、2位のロサンゼルスはその大半が関東平野と同じ広さをもつとされるロサンゼルス郡のみの人口である。これに比べ、シリコンバレーとされる地域(サンノゼ・サニーベール・サンタクララ)はわずか190万人足らず。しかもその大半は富裕層である。アメリカは国内に発展途上国があると思えるくらい、貧困層が大きいが、そんな中でもスマートフォンをもっている人口はどんどん拡大している。BOPは大きなビジネスチャンスである。
つまり、シリコンバレーにいることがビジネスマンとしての自分を目くらにしてしまう可能性すらあるのだ。

またシリコンバレーに住む者には異論もあろうが、私が知る限りのシリコンバレーは日本の投資家にとっても起業家オススメの場所ではない。というのも、家賃や人件費が高騰しすぎているからだ。
(最近では、シリコンバレーからサンフランシスコ市に拠点を移している企業も多いと聞くが、この流れはある意味納得できる)シリコンバレーでは腕に自信のあるエンジニアたちが、目新しいものを探し求めるあまりに、自分たちで「需要」を作り出そうとしているという印象を受けることがある。そういう風にしてできあがったサービスは、本質的に人々に訴求力をもっているものではないので、エンジェルやVCから投資を集めて大々的に宣伝をして集客ができたとしても長期的にはそれらはすべて衰退してしまう。YouTubeがロサンゼルスにスタジオを作り、どんどん新しいコンテンツやビジネスモデル、他国市場とのコラボを模索しているように、あるいはオンラインショッピングカートの代表的存在となったMagentoがLAで頑張っているように、ITならシリコンバレーという意識をもっていたのではすぐに時代から取り残されてしまうのではないだろうか。

サンタモニカのビーチがサーファーにとって都合のいいビーチかどうかは別として、本来「進取の気性」という意味をもつエンタープライズがこの地に多く生まれ、今後北米から世界を牽引するIT企業のメッカとなることを期待しつつ、その中に身を置けるのを楽しんでもいる今日この頃。

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社 ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。元世銀コンサルタント。在米歴30年。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(共にDiscover21)など計六冊。