日本のゲーミフィケーション技術が世界を変える?(2)

前回からの続き)

ところで将棋ウォーズの運営会社のHEROZは将棋の海外普及版ともいえる「動物将棋」のアプリであるどうぶつしょうぎウォーズも提供している。こちらはしっかり英語化されており、英語版ではLion Warsという名前になっている。将棋ウォーズで人気の戦法エフェクトなんかもすっかり踏襲されており、ゲームの単純さから子供でも遊べる内容になっている。図柄は子供を意識してだいぶかわいくデザインされている。

LionWars
AppStoreのスクリーンショット

これ以外に海外で爆発しているのが、古典テーブルゲーム「バックギャモン」のアプリでその名もバックギャモンエース。私はルーレットは好きだがバックギャモンは知らないので詳しく書けない(笑)

さて、将棋ウォーズに話を戻そう。

ゲーミフィケーションがオンライン学習のカギだということは述べた。

その主たる理由は「学習の継続」を支援することにある。千里の道も一歩から、とにかく本格的に何かを学ぼうと思ったらしばらくその世界にどっぷり浸かるということは必要になってくる。だが、たとえば毎日数学の問題をひたすら解きまくれと言われてもやはり萎えてしまう。これは筋トレにしてもそうで、要は「いかに自分のモチベーションを維持しつつ楽しんで継続できるか」、だ。将棋の場合は趣味だから本当に好きな人もいるだろうけれども、勉強しなければならない科目は好きなものばかりとは限らない。その点でこのゲーミフィケーションにはいくつかの要素が必要になってくる。私が思う重要な要素とは下記のようなものである。

1.進捗管理ー自身の成長度が把握できる
2.対人連携ー他人と競争、あるいは協力して何かができる
3.モバイルースマホで場所や時間を選ばず気が向いた時にいつでも学べる
4.コーチングー自分よりできる人から学ぶ方法がある
5.エフェクトー音楽や視覚効果などで楽しめる
6.リファレンスー学習対象について、自分なりの学び方の糸口を与えてくれる
7.イベントー定期的なイベントの開催
8.報酬ーある程度の成長をしたら達成感を与えてくれる何が提供される

これらを細かくみてみよう。

まず1の自身の成長度だが、これは何よりも重要だと考える。誰しもそれなりの時間を勉強に費やしたら本当に効果がでてるのか確認して当然だ。そうでなければ自分の時間がまったく無駄になっているかもしれない。もちろん多くのゲームは、時間と引き換えに「楽しみ」を得ていることが多い。単なる趣味のゲームならそれでも構わないが、それとて例えばパチンコやスロットゲームならコインの枚数、麻雀ならレーティングという風に何らかの指標が提供されているものが多い。そうでないと結局飽きがきてしまう。
学生時代部活などで筋トレにハマった経験がある方なら分かると思うが、筋トレをすると自分の身体つきが変わってくるのが何とも楽しいものだ。ただ、脳の場合は簡単には中を覗けないのでそういうわけにはいかない。それ以外にも英語ならTOEIC、漢字なら漢字検定など試験を受けるのは自分の成長度合いを測るために他ならない。

将棋ウォーズの場合、これらは下記の3つで構成されている。
a.級・段位
b.棋力のレーダーチャート

aについてゲーム開始時は誰でも30級から始まる。独自のマッチングアルゴリズムに基いてマッチされた相手と戦い、勝つことでこの級位が上がっていく。最初はすいすい上がるのだが、途中でそれが止まる。それがだいたい自分の級位であり、その前後のレベルの相手と戦うことで級位を決める%が増減する。例えば筆者の場合10分将棋では1級だが10〜20%台をうろちょろしている。これが100%になれば見事初段昇段となるが、なかなかこれがうまくいかない。最初始めた時は4級でしばらくストップしたくらいなので、それからするとよくなったとは思うのだが、当面初段を目指して修行を続けている(笑)

bについても重要である。これは、ブレインウォーズにも採用されているものだが、戦術力や終盤力などといった6つのパラメーターで自分の棋力を知ることができる。

棋力チャート

(筆者の本日づけのチャート。棋力は本当に大したことない(苦笑)が、10秒将棋をメインにしているので早指しの評価が高め)

2については言わずもがな、将棋ウォーズは対戦ゲームである。AIとの練習モードもあるが、基本は対人間で遊ぶゲームだ。(将棋コンピュータの中では大御所のPonanzaのAIを組み込んだPonaXXXというのも登場する)最近のアップデートで対戦時には戦歴が出るようになったのが嬉しい。また、相手が気に入ったり、ウォッチしたいと思ったら友達登録することができる。もちろんリアルの友達を登録して一緒に遊ぶことも可能だ。(将棋ウォーズは無料で遊ぶと一日三局までという制限があるが、友達と遊ぶ際にはこの限りではない)

対戦画面
対戦相手が決まった後の画面、この直後対局が始まる

3のモバイル対応というのは、将棋ウォーズの場合そもそもモバイル・アプリだからそのままなのだが(*注ブラウザ版も存在する)、ブラウザベースのオンラインコースではやはりメインのアクセスはラップトップやデスクトップからとなり、場所が制限されてしまう。言語学習ではDuoLingoというアプリが人気だが、やはり学びたい(遊びたい)時はいつでもどこでもが今の時代のスタンダードである。

4は少し変わった視点かも知れない。やはり学習するからには、自分よりうまい人から学びたい、あるいはその技術を盗みたいものだ。将棋を学ぶ人たちは、いろんな工夫をしてこれまで将棋を学んできた。詰将棋や将棋本を読むこともそうだが、プロ同士が対戦した際の「棋譜」を見て、その通り盤面を並べたりして、プロの腕前を学んだものである。アメリカで一昔前にテキサスホールデムポーカーが大流行した際も、実はきっかけはプロのカードをテレビの画面に映すことでそのテクニックを盗めるということが人気のきっかけの一つだった。

この点で将棋ウォーズは、他人同士でプレイしている試合を観戦することができる他、戦法ごとのランキングや定期的に開催される大会の上位プレイヤーの棋譜などを参考にすることができる。プロや奨励会員も数多く参加しているようなので、まさにこれまでにはなかった「生きた教科書」である。もちろん、これらのプレイヤーデータはアプリの開発元としてはビッグデータとして活用方法が多数あるだろう。

Ponanza_kifu
(かなり強い上位のポナンザの棋譜 AIはレベル毎にたくさん準備されている)

また、これ以外に非常に革新的な機能として「棋神」機能というのがある。これは上記のPonanzaという超強いAIが自分の代わりに5手指してくれる、つまり「代指し」機能である。例えば、筆者はゴルフも(下手の横)好きだが、ラウンドしている際に難しいライにあるボールを見たら、ふと「コーチが代わりに打ってくれないかなぁ」と思うことがある。下手な自分が自分なりの打ち方をしても、うまく飛ばないばかりか次につながるレッスンを得られないと思うからだ。この棋神機能はその点で、まさに絶妙なヘルプを得ることができる。もちろん、終盤であればその5手で一気に相手を詰ませることができる時もあるし、焼け石に水の場合もある。(ちなみに自分が絶望的な場合は、この神からも見放されてしまうとういのが何ともシュールだ 笑)

ところで、アプリは素人が学習する際に非常に大きな手助けとなる。何故かというとゲームでは間違った手を指すことができないからだ。例えば金という駒は後ろ斜めに下がれないし、同じ列に歩を二枚指すことは「二歩」という反則、王手がかかっているところに駒を動かすことはできない、など慣れたら犯さないような間違いでも素人同士がやってると結構スルーされてしまうということがある。この点ゲームではそういうことができなくなっており、まさに「コード」の制限がかかっている。これにより、ずぶの素人でも個人でどんどん学んでいくことができ裾野が拡がる。昔は将棋をやりたくても周りにしてくれる人がいないとできなかった、だから将棋会館に通う必要があったのだが、ネットやアプリで世界中から対戦相手を見つけることができる。

実は筆者がこれらを本格的に分析しているのは、これらの技術を現在構想中の「本格派言語学習アプリ」に活かしたいと考えているからである。。。

(続く)

立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。

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