第6章 編集者の活躍の場 – 電子ブック開国論 (57)

電子出版を取り囲むこのような状況を思案し続ける中で、何度かでくわした結論がある。それは電子出版の主役であるコンテンツを作るのは作者だけではなく、編集者という強力な支援者がいなければ成り立たないのではないかということだ。(実際にこの本も山田順氏という数々の本をプロデュースしてきたベテラン編集者の協力のもとに成り立っている)これは本にしてもマンガにしても同じことだ。世に送り出されてきた名作や大作といわれる作品の中で著者だけで完成した作品というのは実はそう多くはないと思う。

編集者はこれまで出版社に雇われた立場で、売り上げを気にする上からの意向と自分のポリシーを貫きたい作家とのはざまで板ばさみにあいながらも、数々の名作を世に送り出してきた影の立役者の集合体である。出版社が不況にあえいでいるのは他の経営上の問題があるからであって、それがすなわちその会社で働いている従業員の価値を一切否定するものではないということは声を大にして伝えておきたい。もちろんこれからの時代は市場のニーズも読者自体も大きく異なってくるわけだから、市場にあったコンテンツづくりをするためには数々の苦しい自己否定を通過しなければならないかも知れない。しかし、これまでの苦労と実績が本当に自分の身になっていれば、きっとそんな苦労は乗り越えることができるはずだ。これから世界という市場に向かってますます大きなチャンスを手にするクリエイターと同様に、編集者の方々にも可能性を捨てずに大きなビジョンをもって、先に進むことを提言したい。これからは独立した編集者、あるいは実力のある編集者のチームが従来の業界ではメジャーになれなかったクリエイターをどんどん世に送り出していく時代となって欲しいと私は心の底から願っている。そうでなければ「開国」の意味はない、とまで言えるだろう。

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立入 勝義 (Katsuyoshi Tachiiri) 作家・コンサルタント・経営者 株式会社ウエスタンアベニュー代表 一般社団法人 日本大富豪連盟 代表理事 特定非営利活動法人 e場所 理事 日米二重生活。4女の父。在米歴20年以上。 主な著書に「ADHDでよかった」(新潮新書)、「Uber革命の真実」「ソーシャルメディア革命」(ともにDiscover21)など計六冊を上梓。